「救急車に道をゆずってほしい」
少し前にSNSに投稿されたこの一文が、大きな話題になった。
たしかに、道をゆずってくれないクルマは多い。私も10年ほど前、東京消防庁の密着取材で緊急車両に同乗させてもらったことがあるが、何度もはがゆい場面に出くわしたものだ。
特に危険なのは、交差点への進入時である。前方が赤信号のときに交差点に進入しようとすると、左右から突っ込んでくるクルマがいるのだ。緊急車両の接近に気づいていないならまだしも、ほかの車両は止まっているのに、それを無視して一台だけ飛び出してくる。もう、明らかに知っていながら、「先に行っちゃえ」という動きにしか見えないのである。
もちろん、緊急車両は交差点手前で減速し、左右を確認しながら進むので大事には至らないのだが、その分、災害現場(もしくは傷病者)の元へ到着する時刻は遅れる。一秒を削るように防火服などを装着し車両に乗り込んで現場に向かっているというのに、なんともやるせない思いである。
緊急車両を避けるタイミングは難しい?
一方、二車線以上ある道路を行くときも大変である。サイレンに気づき、いち早く車両を寄せてくれるクルマ(これは本当に助かる)がいる一方、ゆるゆると流れのある道の場合、だれも寄せてくれない場合もあるのだ。
たしかに、後方から緊急車両がせまっているときに、どのタイミングでよけるかの判断はむずかしい。早くよけすぎても、後ろのクルマに追い抜かれてしまう。でも、思い切ってよけると、まわりのクルマもどんどん同じように行動してくれることも事実。以前、このコラムでも、クルマの遮音性が上がりサイレンに気づきにくくなったと書いたが、少しでも音が聞こえたら勇気をもって最初の一台になりたいものだ。
緊急車両に乗っていて感じたのは、よけてくれるまではいいのだが、わずかでも動いているとめっちゃ怖いということである。逆に、いいタイミングでびたっと止まり、ハザードをつけているクルマを見ると、「ありがとう!」と御礼をしたい気分だった。なので、ドライバーは、よけたらすぐに完全停止を心がけたい。もしくは、ハザードで「緊急車両の接近に気づいてますよ、止まりますよ」と意思表示をすると、緊急車両の機関員(運転手)は、安心して前に進めると思う。
あまり知られていないが、道をゆずってくれないのは、クルマだけではない。実は、歩行者もゆずってくれないのである。赤信号の交差点を通過するとき、緊急車両より先にわたろうと小走りうろつく人が本当に多いのだ。これは怖い。私は歩行者としてこういう場面に出くわすと、笛を吹いて歩行者を止めたい衝動にかられることが何度もある。クルマだけではない。歩行者、自転車も、ぜひ、緊急車両に道をゆずっていただきたい。
左に寄るだけでは緊急車両が通れない
さて、自動運転になったら、緊急車両に道をゆずれるようになるのだろうか。そう思いながら道路交通法を確認すると、あることが判明した。
道路交通法第40条には、「緊急自動車が接近してきたときは、車両は、道路の左側に寄って、これに進路を譲らなければならない」とあるのだ。一方通行の道では左側によけると緊急車両の通行を妨げることとなる場合があれば、右側でもよいとあるものの、基本的に「左側」なのである。右じゃだめなの?
この考え方の基本になっているのは、「左側によけることで、緊急車両がすみやかに、追い越しができるようにするため」というものだ。しかし、いつの時代の道幅と交通量の話なのよと思わざるを得ない。現状、高速道路も含め、左によけるよりも、左右に、モーゼが海を割ったようによけてくれる方が、圧倒的に効率がいいはずだ。というか、左に寄るだけでは緊急車両が通れない場所だってあるだろう。
今回は、自動運転時代を見据えて道交法を調べてみたけれど、自動運転の時代になるまでもなく、こうした部分の法整備は進めていかなければと思う。
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「ハチ公物語」「しっぽをなくしたイルカ」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。最新刊は「法律がわかる!桃太郎こども裁判」(すべて講談社)。