戦後高度成長期の国民車構想に沿ったクルマとして、トヨタは1961年に『パブリカ』を世に送り出しました。しかし、パブリカは思ったほどの販売実績を残すことができませんでした。
そうこうしているうちに、1966年にパブリカより上のモデルである『カローラ』が登場。日本の平均所得もグッと上がってきたこともあり、カローラがヒットしていきます。とはいえ、カローラよりもコンパクトでリーズナブルな車種が欲しいというニーズは確実に存在しました。そこをカバーするために登場したのがパブリカの上級モデルとして設定された『パブリカ・スターレット』でした。パブリカの販売不振の原因のひとつには、装備の質素さであったこともあり、パブリカ・スターレットでは高級化と装備の充実さに力が入れられます。その最たるものがエクステリアデザイン。エクステリアデザインは初代スターレットはジウジアーロの手によりデザインされたファストバックボディをまとっていたのです。
初代&2代目と3代目以降では大きな違いがあります。初代と2代目はフロントにエンジンを積みリヤを駆動するFR方式、3代目以降はフロントエンジン・フロントドライブのFFとなります。初代と2代目の型式はKP○○、3代目以降はEP○○となります。なので「うちのKPが」といえばFR乗りであることがわかったりしたものです。じつは型式でいうなら2代目のパブリカもKPです。トヨタは車両型式のなかにエンジン型式を盛り込むのが通常で、KPはK型エンジンを積むモデルということになります。有名なAE86はA型エンジンを積んでいます。AE86もFRでモデルチェンジしてFFのAE92になりますが、引き続きA型エンジン(4A-G)を搭載したので、AEの型式を引き継ぎます。A型エンジンはFF、FRの両方に使えたのですが、K型エンジンはFF転用もその時代が求める性能も満たさなかったのでしょう。スターレットのエンジンはE型に変更され、型式がKPとなります。
最初のFFモデルである3代目は1984年から市場投入が始まります。スポーティなターボモデルは「韋駄天」というコピーが使われ、走りを強調しました。この3代目は、それなりにスポーツ性が高められていたのですが、FRからFFになったこともあり、そのポテンシャルを受け付けることをちょっと拒否する傾向もありました。しかし、さらに代を重ねて4代目になるとFFに対する拒否反応も緩んできます。
4代目が登場するのは1989年です。そう、あの1989年。この連載で毎回出てくるキーワードの年、日産『R32スカイラインGT-R』、ホンダ『NSX』、ユーノス『ロードスター』、トヨタ『セルシオ』などなど日本車最高の当たり年と言われる1989年なのです。とにかくすごいクルマがいっぱい出た年なので、自動車雑誌での扱いについてもどうしても小さくなりがちでした。よくよく考えると、じつにお買い得で楽しいクルマだったのです。
とくに面白かったのが初期のターボモデルです。この時代、トヨタはまだFFに対しての知見が少し足りない時代でした。ホンダはFFをやり続けていましたし、日産も『チェリー』時代からFFがありました。しかし、トヨタは1978年の『ターセル』&『コルサ』までFFを持っていなかったのです。それでも、ライバルに対抗するにはパワーを上げなければなりません。4代目スターレットのターボモデルは、4気筒の1.3リットルで、当時としてはかなりハイパワーとなる135馬力の出力を誇りました。初期の足まわりはこのターボのパワーについていけず、かなり難しいハンドリングのクルマでした。しかし、それが好き者の心を揺さぶったのです。
いつの時代もローパワーなクルマでハイパワーなクルマよりもいい走りができるのは、走り屋にとってたまらなく楽しいものです。それを実現してくれるようなクルマが4代目スターレットでした。いわゆるボーイズレーサーです。ボーイズレーサーは低コストでスポーティなクルマで、スズキ『アルトワークス』や『シティターボ』(とくにターボII)、日産『マーチスーパーターボ』などが該当します。もちろんスターレットターボもボーイズレーサーとして、一世を風靡したモデルです。
チューニングアイテムについても比較的豊富に登場してきたのもスターレットを楽しむことができた大きな要素でした。当時、富士スピードウェイで行われていた富士フレッシュマンレースにはスターレットのクラスがあり、そこで使われていた足まわりやブレーキパッドを移植することができたはずです。当時のレースは今のナンバー付きレースではなく、プロダクションカーレースといって、エンジンなどの改造はできませんでしたが、足まわりやブレーキパッドは自由に選択することができたのです。
リッチな人たちは280馬力級のモデルに吸い寄せられていきましたが、そうでなくてクルマを楽しみたい人達が選んだのがスターレットに代表されるボーイズレーサーだったのです。見た目も大したことないクルマが、大パワーモデルのスポーツカーよりいい走りをする…これって、よくよく考えると、クルマ漫画の典型的パターン。でもやっぱりそれをやりたくなっちゃうのが、人間ってもんなのです。