飲酒運転防止装置を「標準装備にできない理由」とは?…千葉県八街市 飲酒運転事故 | CAR CARE PLUS

飲酒運転防止装置を「標準装備にできない理由」とは?…千葉県八街市 飲酒運転事故

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  • 飲酒運転防止とADAS機能
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飲酒運転による痛ましい事故がまた起きてしまった。対策は多面的・多層的に行う必要があるが、その一方で、衝突被害軽減ブレーキが追突事故を約8割減少させるというメーカーのデータもある。飲酒運転について車両技術で対応できることはないのだろうか。

◆呼気チェックは緑ナンバー事業者のみ義務化

ガスセンサーによる呼気のアルコール濃度チェックとエンジンのイグニッションを連動させたシステム(アルコールインターロック)もすでに存在する。近年ではカメラ画像によるドライバー認識などと組み合わせて不正をしにくくしたものも少なくない。正しく使えば動作精度や実用性に問題はなく、飲酒運転防止に大いに貢献する。

法的な規制も存在する。運送事業者、つまり緑ナンバーを取得した車両で人や貨物の輸送を行う場合、運行前にアルコール検知器による点呼・チェックが義務付けられている。過去の事故を教訓に導入された法律だ。しかし、これは緑ナンバーの車両での事業が前提となり、白ナンバーでの業務利用には適用されない。飲酒運転の罰則に業務や車両による区別はないので、白ナンバーでもアルコール検知器点呼の義務化をしてもよさそうだが、現状の法律はそこまで規制していない。

業務で車を利用する目的や理由はさまざまだ。第三者や第三者の荷物を輸送することで利益を得る旅客運送業は、事業所の登録、緑ナンバーの取得、車体番号(ゼッケン)の取得や、業務・運行管理の規制や責任を負う。人の命やひと様の物を扱うので、これは道理だが、輸送を主目的としない製造業、商店、その他多くの事業で車両を使う場合まで厳密な管理はできない。自社製品の納品、材料の受け取り、営業回り、顧客サービスとしての配達、各種作業車両は、飲酒運転防止についての措置は一般の乗用車とおなじ扱いだ。

◆白ナンバーで呼気チェックを義務化できない理由

飲酒・酒気帯び運転による罰則はあるが、予防措置は各自・各社の責任範囲となり、機器による検査を行わないことを直接罰することはできない。厳正かつ画一的な規制は、自由な経済活動、事業活動を制限することになるからだ。今回の千葉の事故では、白ナンバーのトラックであり検知器による点呼が義務付けられていないことが問題になった。本来、運送事業において白ナンバー営業は違法だ。

しかし、たとえば「引っ越し」の相談や荷造りの手伝いを行う事業者・個人事業主が、サービスでトラックで荷物も運ぶ場合、運賃の請求をしなければ白ナンバーでも違法ではない。製造業が効率化や経費節減のため、白ナンバーの自社トラックを所有し、ドライバーをスポット契約したり、社員としてのドライバーに運ばせるのも適法だ。過度な規制は、このような事業活動まで制限しかねない。

業界や業種ごとの事情もあり、車両メーカーとしては安全機能とはいえ利便性も制限される機能をいきなり全車種に展開するわけにはいかない。法規制にも関連する装備や仕様は、どちらかというと協調領域として自工会等での議論に委ねざるをえない。

とはいえ、今回の事故は一般車両を含めアルコールインターロックシステムの装備義務化を考えてもよいタイミングでもある。ADAS機能の開発・普及が進み、関連技術も進歩している。普及が進むことで、センサー技術や画像処理技術がリーズナブルなコストで製品に搭載可能になっている。レベル3以上の自動運転には必須とされるドライバーモニタリングシステムと併用すれば、検知精度と不正防止機能の強化が期待できる。

ドライバーの状態や挙動を利用しなくても、運転挙動で危険な状況を検知・回避する技術もある。一般的なADAS機能のうち、衝突被害軽減ブレーキ、車線逸脱警報・防止装置、前車追従型オートクルーズといったものは、飲酒による危険走行の事故防止にも役立つ。疲労や飲酒による体調変化や操作の変化を検知できれば、緊急停止(自動運転のミニマルリスクマヌーバ)とインターロックシステムによる呼気確認を組み合わせてもよい。

技術だけでは、アルコール依存症患者による意図的な不正まで防げるものではないが、インターロックシステムやADAS機能の標準装備を否定する理由はない。

◆健康管理とドライバー不足解消のためのADAS機能

興味深いアンケート調査がある。UDトラックスがドライバー200人に行ったインターネット調査(6月17日発表)によれば、経営者・ドライバーともに健康管理の重要性は認識しているものの、実際の対策が十分でないという現実があるという。若手ドライバーの不足も浮彫になっている。

経営者の半数がドライバーの健康管理はできていると答えているが、会社が管理してくれていると感じるドライバーは2割程度しかいない。経営側の主な対策は、休日や休憩時間の確保など労働時間に関するものが上位(1~4位)に挙げられている。5位、6位には運転負荷の少ない車、先進運転支援システム搭載車の導入が続く。

ドライバー側の要望も勤務時間と給与に関するものが多いが、20代30代の若手ドライバーは、自動運転や先進運転支援システム車両を評価、導入を希望する声が高い。対策のギャップに加え、不足しがちな若手ドライバーの意向とのギャップが示唆されている。

アンケートは飲酒運転やアルコールインターロックに関する調査ではないが、事業者側はドライバーの健康管理や若手不足解消という視点で、安全への技術的対策を見直してみるとよいだろう。

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《中尾真二》

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