近年の軽自動車史の中で忘れられないのがA(『AZ-1』)、B(『ビート』)C(『カプチーノ』)、いわゆる「ABCトリオ」の登場だ。いずれもエンジニアとメーカーの熱意の賜物、そんな楽しいクルマが生まれたいい時代でもあった。今回はもう1台のC(『コペン』)も加えて振り返る。◆ホンダ・ビート(1991年)発売順でいうと1991年5月の『ビート』がこの中ではトップバッター。実車のシンボルカラーでもあった“カーニバルイエロー”の表紙のカタログを眺めていると、未だに斬新なクルマで、29年前の発売がつい昨日のことのようにさえ思える。軽自動車初の2座席ミッドシップ・オープンカーだったが、ボックス断面のセンタートンネル、2重構造のサイドシルを用いたモノコックボディなど造りは本格的で、4輪独立サスペンション、4輪ディスクブレーキを採用。前:後=43:57の重量配分。エンジンはNAで64psを達成、3連マルチスロットルほかF1の技術がフィードバックされた高性能ぶりで、40mmと短いシフトストロークは『NSX』譲りだった。タイヤサイズは前が13インチ、後ろが14インチ。運転席は助手席側に25mmオフセットされ、オートバイのようなメーター、シマウマ柄のシート(ドライバー側のスライド量は180mm)など、走りの気分を盛り上げた。◆スズキ・カプチーノ(1991年)『カプチーノ』がスズキから登場したのは『ビート』の発売から半年後の1991年11月。3気筒ツインカム12バルブインタークーラーターボエンジンを縦置きとしたFR(後輪駆動)で、4輪ダブルウイッシュボーンサスペンション、4輪ディスクブレーキを採用。軽初のアルミ製ボンネットも採用された。ルーフはハードトップ、Tバールーフ、タルガトップ、フルオープンの4通りが楽しめ、リヤピラーはアルミ製で熱線入りのガラス製リヤウインドも採用された。図面で見ると左右席はともに幅470mmで、カタログの表記を借りると「風との遊び場…中略…忘れかけていた日本の四季の楽しみを肌で味わえる場所」だった。’95年5月にマイナーチェンジを実施し、11kgの軽量化を果たしたオールアルミエンジンを搭載、3速ATも追加した。◆オートザムAZ-1(1992年)“ABCのA”は、1992年9月に登場した『AZ-1』である。当時マツダが展開していた販売チャネル「オートザム」の専売車種(スズキ版の『CARA』も用意)だった。スチール製モノコックの骨格にオールプラスチックアウターパネルの組み合わせ。見せ場のガルウイングドアはサイドインパクトバーを内蔵し、片側320mmの小さな張り出しで開閉可能だった。2名乗車時の前後重量配分は44:56で、CD値は0.36。サスペンションは前後に『アルト』由来のストラットを採用し、エンジンはF6A型3気筒DOHC12バルブインタークーラーターボで、5速マニュアルトランスミッションが組み合わせられた。4輪ディスクブレーキ、オールステンレス製エグゾーストシステムも採用。◆ダイハツ・コペン(2002年)もう1台、前出の“ABC車”とは時系列的には遅くの登場だったが、初代『コペン』もこだわり派の軽自動車の1台として取り上げておこう。パワートレインこそFFを採用するも、搭載エンジンは4気筒のツインカムターボで、シフトストロークが20%ショート化されたマニュアル車にはフロントスーパーLSDも設定された。ATはシーケンシャルシフト付きの4速。さらに軽自動車初の電動開閉式ハードトップの採用はこのクルマの売りで、ルーフロック(パーツはNAロードスターと共通だった)を解除後、20秒でオープン操作は完了。クローズド状態ではトランクスペースにゴルフバッグの積載も可能で、トランクリッドには軽い力で抑えればリッドが完全に閉まるイージークローザー機能も備えた。また“ディタッチャブルトップ”仕様の設定もあり、こちらは車重が30kg軽かった。2006年6月にはレカロシート(アルカンターラオレンジ、シートヒーター付き)、モモステアリングホイール、BBS15インチホイール、ビルシュタイン製ダンパーなどが標準の「アルティメットエディション」(アクティブトップのみ)も登場した。