運転者が行うのは運転だけじゃない…自動運転と救護義務【岩貞るみこの人道車医】 | CAR CARE PLUS

運転者が行うのは運転だけじゃない…自動運転と救護義務【岩貞るみこの人道車医】

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茨城県境町で4月より定時運行を開始する自律走行バス(1月27日発表)
  • 茨城県境町で4月より定時運行を開始する自律走行バス(1月27日発表)
  • 走行の際は監視員も兼ねたコントロール要因が乗車する
【自動運転と救護義務】2020年。いまや自動運転の実証実験は花盛りで、全国各地で行われている。この4月からは、茨城県境町が、ハンドルのない車両で、定時定路線での実用化を始めるというアナウンスも行った。

茨城県境町では、遠隔で管理する担当者のほかに、車内には緊急時に対応する運転手と、補佐として保安要員が同乗するという。使用するナビヤ社の車両は運転席の代わりとして、ゲームコントローラーを用いて、操作するという。

ゲームコントローラーについては、「そんなもので緊急時の対応ができるのか」という声があるけれど、昨今の小学生のゲームプレイシーンを見ていると、ワタシ的には十分ありだと思っている。だってドローンレースなんて超絶すごいんだもの。

境町の場合、一台の車両に対して、最大3人が関わることになるけれど、自動運転車が人手不足を解消するための移動手段であるなら(かつ、人件費削減)目ざすのは遠隔管理者のみの車両内無人だろう。

◆必要となる二つの法整備

だけど、ここは二つの法整備が必要になってくる。

ひとつは、道路交通法の第72条にある救護義務。「交通事故があったときは、当該車両の運転者、その他の乗務員は、直ちに車両の運転を停止して負傷者を救護し、道路における危険を防止するなど必要な措置を講じなければならない(一部抜粋)」とある。

自動運転車両だって事故を起こす可能性はゼロじゃない。自転車やバイクが突っ込んでくることだってある。その時、だれが119番通報し、負傷者を救護し、二次事故にならない措置をするのか。

「車内に設置した119番通報ボタンを活用する」という声があるけれど、119番通報は「火災か傷病者か」「傷病者は何名か」「どういう状況か」など消防指令室に説明しなければならない。スイッチだけでは不十分だ。

ならば、「無線電話を設置し、乗客が消防指令室に伝えればよい」というが、乗客がいないことだってある。それに、第72条にある『その他の乗務員』に乗客は含まれない。彼らに義務はないのである。

では、遠くはなれたところにいる「遠隔管理者が行う」はどうか。たしかに、車両の周囲を確認できるカメラがあれば可能だろう。ただ、負傷者救護や二次事故防止措置はできない。寒い雪の日、反対車線で倒れる負傷者が出た場合、救急車が到着するまでのあいだ、そのまま放置でいいわけがない。

救命救急の医師にたずねたところ、「負傷者への早期対応は救命の基本。遠隔管理者の通報だけで終わらせるのはあり得ない」と即答された。無人で走行させるとしたら、この救護義務をどうするかは、大きな課題なのである。

◆運転者が行うのは運転だけじゃない

もうひとつの整備しなければいけない法律は、道路運送法の旅客自動車運送事業運輸規則第19条である(長い……)。

ここには、いわゆるバスやタクシーなどの事業として運送を行っている人たちの法律が示されており、第19条、事故による死傷者の処置には以下の記述がある。

「事故により、旅客が死亡し、又は負傷したときは、すみやかに応急手当その他の必要な措置を講ずること。死者又は重傷者のあるときは、すみやかに、その旨を家族に通知すること。遺留品を保管すること。(一部抜粋)」

現在、この19条に書かれていることは、現実的には運転手に義務付けられている。車内の無人化を目指す自動運転関係者の間からは、「乗客同士、助け合いで……」という声が聞かれるけれど、そんな淡い期待をしている問題ではないのだ。

人手不足で足りない運転者の代わりをする自動運転なのだが、運転者は行っていることは運転だけじゃない。料金収受、道案内、乗客の安全確保など多岐にわたる。自動運転車の場合、運転操作以外のことを、だれがどう対応するのか。どんな技術が対応できるのか。

また、社会はどう受け止めて、どう法整備がされていくのか、注目していきたい。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。
《岩貞るみこ》

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