マツダの中型SUV『CX-5』で東京~鹿児島を3400kmあまりツーリングした。前編ではシャシーおよびパワートレインのパフォーマンスについて触れた。後編では居住感や快適性、使い勝手、安全システムなどについて述べようと思う。◆自慢のペダル配置が活きたロングツーリング性能まずは居住感、快適性から。ロングツーリングにおいて経済性と並ぶ最重要項目だが、この点についてはCX-5は同クラスのなかで抜きん出た存在であった。ドライバーズスペースは十分な広さを持ちながら適度な囲まれ感があり、右コーナリングではセンターコンソール下部、左コーナリングではドアパッドで体を軽く支えてやることもできる。身体のホールディングをシートだけに頼るのではなく、インテリア全体で行うようデザインされているのは、他のマツダ車と同様、素晴らしいコンセプトであるように感じられた。マツダご自慢のペダル配置もロングツーリングにおける下肢の疲れを極小にとどめるのに大いに役立った。最も踏む時間が多いアクセルペダルはかなり右寄りに配置されており、右足を体育の時間の整列時における“休め”のようなフォームで踏めるようになっている。ペダル形状もボディ外側に向けてオフセットされたものになっており、踏みやすい。短時間ドライブでは“気をつけ”のようにつま先を進行方向に真っ直ぐ向けたポジションでも影響はない。が、その姿勢を保つには常に足に力を入れることになり、長時間ドライブでは何となく足が引きつるような疲労を覚えるようになる。かかとをフロアに置き、ペダルを踏み込む方向以外の力をすべて抜いてもスロットルを踏めるレイアウトは、マツダがロングツーリングについて熟考を重ねた証のようなものであろう。また、マツダのエンジニアは、このレイアウトは昨今問題になっている初心運転車や高齢者のブレーキとアクセルの踏み間違い防止にも役立つと主張していた。たしかに両ペダルの踏み替えポイントの距離には大きな余裕があり、さもありなんと思われた。◆“見かけ倒し”ではなくなった乗り心地の良さ、静粛性の高さも300万円級のノンプレミアムSUVとしては十分以上で、ロングツーリングを気持ちよいものにした。これまでのマツダのスカイアクティブ車は、疲労度合いの小ささという点では高く評価できるものの、揺すられ感や騒音が過大で、体感的な乗り味は雑であった。これがエクステリアやインテリアとの質感のギャップを生み、あえて口悪い言葉を使えば“見かけ倒し”のような印象を抱かせるようなところがあった。それに対して現行の第2世代モデルはアンジュレーション(路面のうねった箇所)や段差を乗り越えても突き上げは弱く、キャビンの揺れも小さかった。静粛性も良好。細かくみればざらつきの強い路面にいささか弱いなど、ウィークポイントもなくはない。が、トータルで見れば世界の同クラスのトップランナーとは言わないが、十分に高得点をあげられる出来だった。快適性が商品力の足を引っ張らなくなったというのは、高付加価値ブランドへの変貌という困難な目標にチャレンジしているマツダがクルマづくりで見せた、ちょっと注目に値する進歩だ。乗り味の部分ではSUV好きな顧客の評価が分かれるかもしれないと思われる部分もあった。マツダはSUVであってもセダンに近い機敏さを持たせることを重視しており、ロール剛性は基本的に高めだ。シャキシャキな操縦性を好む顧客、あくまでセダンの代わりと考える顧客などにはポジティブに受け取られるであろう。半面、SUV特有の、サスペンションストロークをたっぷりと使った鷹揚なドライブフィールはライバルの中でも希薄で、根っからのSUVファンにはちょっと物足りなく感じられるかもしれない。言うなれば、CX-5はSUVとクロスオーバーSUV(乗用車の車高を上げたタイプ)のクロスオーバーモデルといった感じであろうか。使い勝手は基本的に悪くない。走りを無視して居住空間を最大化させるようなミニバン的パッケージングではないためだだっ広いというわけではないが、居住空間については長時間乗車に耐えうる分厚いシートを装備しながら大人4人がゆったりと座って移動するのに十分な水準が確保されていた。その割を若干食っていると思われたのはカーゴスペース。VDA方式による公称値はサブトランク含めて505リットルと十分に広大なのだが、これはリアシートバックの高さで稼ぎ出した数字マジック。遊び道具を満載してお出かけするリゾートエクスプレスとして使うには若干奥行きが足りないように感じられた。◆抜きん出た「アダプティブ・LED・ヘッドライト」の性能次に先進安全システム。CX-5は全グレード、国交省の安全装備指標で最上位の「サポカーSワイド」を満たす「i-アクティブセンス」を標準装備している。そのi-アクティブセンスの働きだが、車線認識&逸脱防止、前車追従クルーズコントロール、ブラインドスポットモニターなど、0次安全に関する装置は良好に機能した。ただし悪天候には弱く、とりわけ湿度の高い雨のような条件ではライバルに比べてアゴを出すのがかなり早いように感じられた。i-アクティブセンスのなかでも同格のライバルに比べて抜きん出て優れていたのはフルアクティブハイビーム(アダプティブ・LED・ヘッドライト=ALH)の性能だ。ハイビーム/ロービーム自動切換え、および先行車や対向車を避けて照射するインテリジェント配光機能を備えているが、CX-5のフロントビームは単にそういう機能を持っているというだけでなく、その作動の的確さやライティングに関する考え方が素晴らしかった。アクティブハイビームを搭載するクルマは昨今、急速に増えているが、モノによって性能はさまざま。価格の高い高級車でも単なるハイ/ロー切り替え式でしかないものがあったり、インテリジェント配光機能を持っていてもちょっと状況が複雑になるとすぐに音を上げてロービーム固定になったりするものも少なくない。マツダはライティングに力を入れており、今やBセグメントサブコンパクト『デミオ』にもフルアクティブハイビームが装備可能なのだが、CX-5のビームはデミオのものに比べて作動の正確性が進化しており、光沢めっき部品を多用している大型トラックなど以前は認識しにくかったクルマについてもかなり的確に察知するよう進化していた。また、ロービームからハイビームへの復帰の早さ、コーナリング時にコーナーの奥を照らす光量、配光調節なども優れていた。夜間走行を伴うロングツーリングにおいて、フロントビームの性能は実は超重要項目のひとつ。それが優れていたことは、CX-5でのロングツーリング性能の印象をはなはだ良いものにした。◆「CX-8」の存在が悩ましい現行CX-5は目立ったウィークポイントがなく、そのために長時間運転時の疲労や夜間走行のストレスがきわめて小さいといった美点がことさら際立つモデルだった。小さな不満点は数あれど、バランスの良さがそれを帳消しにするというイメージで、とくにクルマで積極的に旅に出かけるのを好むカスタマーにとっては所有満足度が長期にわたって持続しそうなキャラクターであった。ライバルは中型SUV全般。国産車で言えばトヨタ自動車『ハリアー』、日産自動車『エクストレイル』、三菱自動車『アウトランダー』、スバル『フォレスター』あたりか。これらと比較してCX-5の強みがことさら発揮されるのは、オンロードでのダイナミック性能であろう。ハンドリングは旧型に比べてリニア感が若干後退した印象があったが、絶対性能、フィールとも依然としてライバルのなかでは随一だ。ライバルのなかで唯一、ターボディーゼルを選べるというのも特徴のひとつだ。CX-5はFWD(前輪駆動)、AWD(4輪駆動)を選べるのだが、今回ドライブしてみたかぎり、AWDの恩恵は結構あるように思えた。雨天など路面摩擦の低いコンディションでもクルマの軽やかさが保たれるのは好印象であったし、FWDに比べれば雪道にも強かろう。ファッション重視ならFWDもありであろうが、特別感はやはりAWDのほうにある。もう一点、クルマ選びの点で悩ましくなりそうなのは、同じマツダブランドの3列シートSUV『CX-8』の存在だろう。登場当初はマツダの現行ラインナップのなかで圧倒的に静かで乗り心地の良いクルマであったCX-5だが、その後に登場したCX-8はCX-5よりシャシー、ボディのポテンシャルが1クラス高い大型SUV『CX-9』をベースにしているため、比べるとさすがにCX-5のほうに分がない。ところが、価格的には両モデルは思ったより接近しており、今回乗ったCX-5のトップグレードに幾ばくかのお金を追加するとCX-8の中間グレードが買えてしまう。これは悩みどころであろう。