【車】「ねえねえ。2020年の東京オリンピックの時期には、自動運転のクルマで、スマホ見ながらビックカ○ラまで買い物に行ける?」IT好きの友人が、期待満々の顔で問いかけてきた。友人は運転免許を持っていない。それでも家電量販店に行っては、大量の機器を買い込んでくるらしく(実物を見ないと気が済まない。そして、気に入ったらすぐに買って家に持って帰りたいのだそうだ)自動運転に期待をしまくっている。「無理!」期待満々の友人には申し訳ないが、ぜーったい無理だ。残念ながら2020年に一般道をすいすいと走る自動運転は実現しない。というか、そんな妄想を友人が本気で抱いていたほうが驚きであり、いかにクルマに興味のない人にまともな情報が伝わっていないかを知って愕然&反省したものである。◆自動運転を「一般道」で実現するためには一般道で実現しない一番の理由は歩行者と自転車だ。自動運転の目的のひとつは交通事故の削減である。たしかにクルマ同士の事故は、クルマ同士がコネクテッドしてぶつからないようにと技術の開発が進んでいる。でも、こう言ってはなんだが、クルマの中にいる人はエアバッグや衝撃吸収ボディがあるから、速度さえそれなりに落とせばなかなか死ぬような事故にはならない。自動運転なんてなくても、交通事故死者数は削減できるのだ。問題は、生身でいる歩行者と自転車だ。人とクルマがぶつかれば、車速が限りなくゼロに近くても死亡事故になる。死ななくても、内臓破裂や脊髄損傷、脳挫傷で高度障害が残るケースもいくらだってある。自動運転で事故を削減したいというならば、まっさきに取り組まなければいけないのは歩行者&自転車対策だろう。ところがいま現在、この件については技術的な解決策はないどころか、目処すらたっていないというのが私の実感である。いくつか案は出ている。その一つがスマホを使った位置情報だ。スマホで歩行者の位置がわかれば、クルマ側に知らせて、出合頭や道の横断中の事故を減らせるというものだ。そのときに使うのは、宇宙のかなたから計測するGPSである。…………。えーっと、今のスマホの位置情報って、めっちゃずれるんですけれど、マジでそれ実現できるんでしょうか? ビルが林立する東京駅周辺なんて、電波が高層ビルに反射しまくってずれるずれる。高層ビルじゃなくったって、山の中を走れば脇にある木々で、ずれるずれる。ついでに、トンネル内はアウトだし、立体交差の下でも電波は届かなくて使い物にならない。日本のGPS「みちびき」が使えるようになって、誤差10センチ以内!と、一部メディアがはしゃいでいるけれど、それでも、建物のなかに入れば位置はずれる。ためしに、今、建物のなかにいるのなら、スマホの位置情報を見てみてほしい。私なんて家のなかにいるはずなのに、位置情報を示す水色の点が、道路をうろつきまくりですよ。しかも、一か所にとどまるのではなく、ふわふわといろんなところを動き回っているし? こんな位置情報をクルマ側が「道に人がいる!」と認識したらたまらない。駅のまわりや学校やコンサートホールなんて人だらけだ。どうするの?(ちなみにコンサートに行かなくなって久しい人のためにお伝えすると、今のロックコンサートはスマホ持ち込み可が多く、ライトつけて盛り上げたりします=つまりスマホはオンの状態)。◆人や自転車が絶対に入ってこない「専用道」が必要バスがらみで多い事故のパターンとしては、バスから降りた乗客が、バスの前後を横断してはねられるというもの。この場合、バスの中か外か区別をつけられるのだろうか。それだけじゃない。渋滞中の車列のすきまを横断していてはねられるパターンについては、歩いて横断している人と、クルマのなかにいる人は分けられるの? 渋滞のなかにいる二輪車のスマホは? オープンカーの乗員は? はとバスの二階建てオープンカーの乗客はどうなるのだ?そもそもの問題として、歩行者の全員がスマホを常に携帯しているとは限らない。私はコンビニに行くときに持っていったことなんてない。ドコモがキッズ携帯を展開しているけれど、小学生男子なんて放課後、ランドセルをほっぽって道で遊んでいるし。親といっしょに歩く三歳児だって、親と数メートル離れて歩き、左折してきたタクシーに気付かれずに犠牲になったはずだ。三歳児にスマホをどうやってもたせるのだ。キーホルダー状にして、首からぶらさげる? だとしたら、転んだ時に内臓を傷つけないようにデザインや、素材は充分に考えてもらいたいものだ。もしも、前出の友人の家からビックカ○ラまで、人や自転車がぜったいに入ってこない専用道を作ることができたなら、2020年に自動運転車両で買い物に行くことは可能だ。だけど、いまの一般道で自動運転が実現するのは、まだまだ遠い未来です。岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。9月よりコラム『岩貞るみこの人道車医』を連載。