これがVW 『ザ・ビートル』に新設定された「Rライン」である。従来Rラインは2リットルターボエンジンを積んだモデルがそう呼ばれていたが、このクルマが誕生したことによって従来のモデルは「2.0Rライン」と呼ばれるようになった。タイトルに言う「これでちょうどいいかな?」というのは、何もエンジンパワーのことだけではない。そもそもビートルが復活して以降、『ニュービートル』の時代は『ゴルフ4』から引き継いだプラットフォームが採用され、モデルチェンジしてザ・ビートルとなっても、基本的に『ゴルフ5』用のプラットフォームが採用されているから、どうしてもゴルフと比べるとひと世代遅れたモデルという印象が強かった。しかしこのRライン、さすがにプラットフォームを変えることはできないが、それでもエンジンはシリーズモデルとしては初めての、ブルーモーションユニットを搭載した。これによってラインナップでは唯一アイドリングストップ機能を持つクルマになった。さらに、アップコネクトのインフォテイメントが、Rラインのみならず全モデルで標準装備となり近代化を果たしたうえ、安全面でもブラインドスポットディテクションや、リアトラフィックアラートなどを標準装備する。おまけにアイドリングストップすることからか、ベースモデルよりもJC08モード燃費はこちらの方が上というおまけまで付く。だから、シャシーはいささか古いものが使われているが、全体的なブラッシュアップによって、性能と機能が最新モデルに追いついてきたことを実感させてくれるモデルになったというわけである。ザ・ビートルをどのようなジャンルのモデルと表現したらよいか少し迷う。誤解を恐れずに言うなら、限定生産車ではないものの、やはりパイクカーという範疇に入るのではないかと思う。ということならば、基本的にはデザインを楽しむクルマであって、機能や性能は二の次という考えも成り立つ。プラットフォームが古く、最新の性能を持ち合わせていないという点ではまさにそれだ。しかし、Rラインに乗ってみると、そんな印象は希薄で、性能面ではほぼ最新鋭と肩を並べるレベルにまで到達している印象を受けるのだ。ご存知の通り、ゴルフ5とゴルフ6は同じプラットフォームを持っているが、乗り心地は全くの別物。ザ・ビートルRラインの乗り心地は、どちらかといえばゴルフ6のそれに近い。1.2リットルエンジンを搭載するベースのザ・ビートルでは、性能は物足らなさを感じてしまうが、このブルーモーションの1.4リットル150psなら、その物足らなさは完全に払しょくされて、これで十分という印象を持つ。ちょっと前まではキーシリンダーにキーを差し込んで捻ってかけていたエンジンも、今ではシフトレバー前のスターターボタンに変わっているから、これも近代化の象徴。さすがにスタイルの犠牲になって、ラゲッジスペースが不足気味だったり、3ドアであることによるリアへの乗降性に難があったりするものの、元々クーペだと思えばまるで気にならないし、中に入ってしまうとその空間は意外と広いのである。ひとつ不思議なことは、オリジナルのビートルは今見ても全く飽きが来ないエバーグリーンな印象を保っているものの、ニュービートルにしてもこのザ・ビートルにしても残念ながら、少々飽きてきた(デザインに)というのが個人的感想としては偽らざるところ。やはりオリジナルに勝るものなし…であろう。■5つ星評価パッケージング ★★★★インテリア居住性 ★★★パワーソース ★★★★フットワーク ★★★★おすすめ度 ★★★中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。