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【川崎大輔の流通大陸】「日本流タクシー」がフィリピンで成功した理由

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フィリピンで唯一の日系タクシー企業であるRYO AKI TAXIの代表である濱田博昭氏にフィリピンでのタクシービジネスの現状と成功要因について話を聞いた。


◆フィリピンの自動車市場

2016年9月にフィリピンを訪問した。フィリピンの首都はマニラだが、政治や経済の中心地はマニラ市を含む16市1郡で構成される“メトロマニラ”が正式な首都名だ。貧困と混とん、退廃と危険、のイメージとはかけ離れた大きなきれいな高層ビルが建ち並ぶ。メトロマニラを初めて訪問した人はだれもが、摩天楼がひしめくオフィス街を見て「こんな都会とは思わなかった」と声を漏らす。アセアンでも有数の巨大都市だ。

フィリピンの人口はインドネシアに続くアジア第2位の1億人だ。2015年のフィリピン新車総販売台数は、32万3928台に達し、前年の26万9841台から20%増加。日系メーカーのシェアは全体の75%ほどで、2大巨頭のトヨタ、三菱自動車を筆頭に、ホンダ、いすゞ、日産などがある。2015年の総販売台数ベースでのメーカーシェアは、1位がトヨタで12万4426台(シェア38.4%)、2位が三菱自動車5万4087台(シェア16.7%)であった。タイやインドネシアと比べると少ない台数ではあるが、新車販売台数の成長率はアセアン諸国の中でトップ。経済発展に牽引され更なる市場拡大が期待されている市場だ。


◆モータリゼーションが進むフィリピンのタクシー業界

人口密度はアセアン随一といわれるメトロマニラだが、人々の生活に必要な交通インフラは整っていない。鉄道やバスなどの公共交通機関の利便性が悪く、民間サービスが市民の足となっている。中でも民間サービスの主力タクシーは都市部では台数が足りず、なかなか捕まえることができない。

メトロマニラの広さは東京都に近いが、人口は東京都の1300万人と比較して2倍以上だ。タクシー台数は東京都の5万台と比較して、メトロマニラでは1.7万台ほどと明らかにタクシーの台数が足りていない。

フィリピンタクシー業界の特徴として、サービスの品質の低さがあげられる。理由は、日本と比較してフィリピンのタクシードライバーは経済的負担が大きいためと推測する。

給与体系は日本では車両は会社負担で、最低賃金は保証される。一方フィリピンでは、バウンダリー制と呼ばれドライバー自身が車両のレンタル費を会社に支払う形で運営がなされている。更に最低賃金が保証されない完全歩合制で収入が安定しない。ガソリンもドライバーが100%負担という。

その結果、自らの収入確保のために不正行為が常習化し、サービスの品質があがらないのだ。


◆失敗するといわれてたタクシー市場へ参入した日本人

このような状況に目をつけて参入をした日本人が、RYO AKI TAXIの代表である濱田氏だ。現在、メトロマニラにおいて、単独経営における最大規模のタクシー車両を保有・運行している。

タクシー業界に信頼と安心のサービスを導入すること目的に、個人でタクシー車両5台を購入しトライアル。2011年に RYO AKI TAXI Inc. を設立して本格的にタクシービジネスを開始した。インタビューを行った2016年9月現在、タクシー事業、レンタカー事業において、総数500台近い車両を保有している。単独経営の会社としては、メトロマニラで最も多い車両保有台数企業である。短期間で大成長を遂げた。

直近では新規参入が不可能といわれていたガソリン卸事業にも参入し、自社保有車両が主顧客となる安定した経営形成を築いている。


◆RYO AKI TAXIの差別化

RYO AKI TAXIは、業界内で安全性はもちろん、日本流の接客サービス、更に当時タクシー業界では新しいクレジットカード決済、車内広告サービスなど、他社が行ってなかったサービスを最も早く導入した。現在では業界のパイオニア的な存在となっている。

しかし本当の差別化は、「社内文化の構築」である。メトロマニラで常習化している、チップの強要や乗車拒否など、お客様ならうれしいと感じない一切の悪質行為を止めるために150ルールを社内で作りドライバー教育をしている。ルールには、ボロボロの服は良くない、サンダル・ジーンズは良くない、ひげを剃る、あいさつをする、メーターを改ざんしない、お釣りをごまかさない、などが細かく記載されている。

ルール通りに実行したドライバーが、 車内で見つけたお客様の財布を警察に届けた。そのことが大きな地元メディアに取り上げられた。そのドライバーはインタビューに対して「RYO AKIのドライバーであれば皆が同じことをする、何の疑いもなく届ける」と答えている。

基本方針が、ドライバー自身の成功体験に直結しており、皆がプライドを持ってサービス提供に取り組む社内文化が構築された。それがサービスの品質向上につながっている。

日本では当たり前の労働環境や福利厚生制度も、いち早くフィリピンで導入。ドライバーの社会的地位を向上させ、社会の一員としての自覚を芽生えさせ、プライドを持って業務に当たれる環境作りを行った。これが社内文化の更なる向上と伝承へとつながっている。

会社員時代は半導体会社の立ち上げなど23か国で仕事をしたことがあるという濱田氏は「海外ではその国の文化、考え方があるが、それを理解せずに日本のやり方を押し付けている様では動いてくれない」と、力説する。

使ってやっている、やれ、という考えでは駄目。従業員たちに自分たちの幸せがあることをしっかりと伝えることが重要。我々は外国人であり仕事をさせてもらっている、という気持ちを忘れてはいけないと指摘する。


◆RYO AKI TAXIの課題と展望

フィリピンでタクシービジネスを行う魅力は、「大きな消費市場があり、日本ブランドを活かすことができる」と濱田氏はいう。従順な性格で、ホスピタリティがあり英語が使えるというフィリピン人の潜在能力は高い。

一方で課題は、サービスの概念が低く、サービスの品質をしっかりと維持継続していくことだ。更なる社内文化の構築と伝承のために、濱田氏は今後、従業員とともに暮らせる移住食などが整ったRYO AKI CITYの実現も目指している。ビジネスをただの小売業やサービス業だけにとどめることなく、住宅の確保、生活の確保、教育の確保、職の確保とつなげることで人・モノ・お金の循環が行える商業都市だという。

今後のタクシービジネスにおける展望は、「投資家のお金を入れて更に車を増やし、メトロマニラにある1万7000万台のタクシーをすべてRYO AKI TAXIにしたい。タクシー業界の品質を向上していきたい」と濱田氏は考えている。これからは、あいさつ、きれい、言葉遣い、安心、安全などのサービスの時代である。タクシー料金が一律であれば、人間だれでも気持ち良いタクシーに乗りたいと考えるだろう。

フィリピンのサービスビジネスの市場はまだまだブルーオーシャンだ。日本のサービスレベルを持ち込むことでビジネスができる。サービスを定着させるには時間と工夫が必要だが、多くの可能性がある市場であることは間違いない。


<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより自らを「日本とアジアの架け橋代行人」と称し、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。専門分野はアジア自動車市場、アジア中古車流通、アジアのアフターマーケット市場、アジアの金融市場で、アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。
《川崎 大輔》

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