2023年12月20日、ダイハツが指名した第三者委員会が、説明会を開催し、ダイハツの新たな不正が明らかになった。4月28日にダイハツが発表した不正行為を受けて発足した第三者委員会の8ヶ月にわたる追加調査によって発覚した新たな内容の発表だ。
不正行為は全部で174件という未曾有の規模であり、数が多いだけに様々なケースがあるが、どう見ても意図的な不正としか言えないものを複数含んでおり、極めて重大かつ悪質な不正事件である。
しかも、古くは1989年から始まっている。この問題の連続性については、年次発生件数を見ながら後で改めて検証するが、少なくとも2014年以降については、多少の濃淡はあるものの10年の長きに渡り継続的かつ多くの不正が行われており、ユーザーを筆頭とした多くのステークホルダーの信頼を裏切った行為は看過し得ない。
そもそもの話、今回の不正は“型式認定”を受けるための認証検査で不正があったという話である。この型式認定とは何かをちゃんと理解している人は少ないと思われるので、まずはその辺りから説明を始めよう。
認証試験とは? 自動車産業全体の危機を孕む今回の不正
原則論で言えば、国土交通省は「クルマが安全かどうか」を判断し、公道での運転を認めるためには、登録する個別のクルマ1台ずつについて車両の法規適合検査を行うことになっている。
ただし、現実的に考えて、検査のために国交省管轄の自動車検査登録事務所(車検場)に国内で販売される新車全てを1台ずつ持ち込まれても、設備的にも人的にも全数を検査するだけのキャパシティには全く足りないので、量販メーカーに関しては、1台ごとの検査を免除するために、型式毎にまとめて認定認証を行うのだ。
ちなみに量販メーカーのクルマでも、生産台数の少ない一部のモデルは型式認定を取得しておらず、持ち込み検査を経て登録される。何台もの衝突実験を行う必要があるため、販売予定台数が少数だと型式認定のコストが出ないからだ。同じ理由で輸入車には持ち込み検査となるモデルがかなり多い。
さて、この型式登録だが、一例を挙げれば、『トール』は、あるいは『ロッキー』は、各部がこのようになりますという申請をダイハツが国交省に届け出て、書類審査および、試験車両による代表試験を行う。この認定認証は、基本的には個社の社内で行った試験データの提出だが、項目によってはその試験に国交省の検査官が立ち会うこともある。こうした認定を受けることで、正しいクルマの状態の基準情報を作成し、メーカーは組み立て完成時に1台1台をその基準情報と照らし合わせて完成検査を行うことで、同型車両の車検場持ち込み個別検査を免除する制度である。
今回の不正はその型式認定認証での不正である。覚えている人も多いと思うが、2018年に問題になったのは“完成検査”。こちらは生産された1台ずつのクルマが事前に型式認定を受けた通りの仕様に組み立てられているかどうかを、車検場に代わって検査する制度である。
つまり型式認定と完成検査は一対の制度で、型式認定で、基準値を審査し、完成検査でその通りに出来上がっているかを確認する。お堅いお役所が、メーカーを信頼して自主検査を認めた結果が完成検査であり、その検査の基準となる設計仕様がそもそも安全かどうかをあらかじめ調べる試験が型式認定の認証申請である。
この制度によって、先に触れたように国交省管轄の自動車検査場のキャパシティも、1台ずつ車検場に持ち込む作業がいらなくなる販売ディーラーの手間暇も大いに助かるし、個別検査を実施しないで良い分、ユーザーも支払いコストが下がる。厳格であるべき2つの検査をメーカーが自主的にしっかり行うことで、社会全体の負担を軽減できる。それは日本が自動車大国になれた理由のひとつでもある。
このように、自動車産業発展のための欠くべからざる制度であるが、ただしそのためには、自動車メーカーは国から委託を受けた信頼に応え、国に代わって責任持って正しい型式認定を受け、1台ごとにしっかり完成検査を行って、クルマの安全性を担保しなくてはならない。
それが揺らいだということは、つまり、今回の不正は、自動車産業全体の根幹を揺るがす大事件であって、なまなかな話ではない。無いとは思うが、仮に国交省側が「型式認定制度を維持していくにはメーカーは信用ならない」という結論にでもなれば、今後は原則通りに戻って、全てのクルマが持ち込み検査を経なければ登録できないことになる。
となれば、自動車検査場の処理能力が日本国内の自動車販売のチョークポイントになる。設備的にも人員的にも急拡大することは難しい。となればユーザーは欲しくてもなかなかクルマが買えない。自動車メーカーは売り上げ激減で自動車産業丸ごと存続レベルの危機という大問題に発展しかねないのだ。
第三者委員会の主張
さて、ダイハツが犯した174件という不正件数は、あまりにも多く、そのひとつひとつを記事で検証すると冗長化が避けられないので、状況を説明するための最低限とし、不正そのものの直接的検証は本稿の主題とはしない。誠に申し訳ないが、特にオーナーの方はお手持ちの車両にかかる個別の不正が心配な場合、以下のダイハツの情報ページから第三者委員会の報告書をダウンロードして調べるか、購入元のディーラーにお問い合わせいただきたい。
●第三者委員会による調査結果および今後の対応について
記事を書くにあたって、まずは多くのユーザーの心配に対してどう答えて行くかを第一に考えたい。もちろん筆者は不正当事者でもなく、第三者委員会とも関係ないので、一次情報を持っているわけではない。完璧な答えができるわけではないが、少なくとも専門家として、ジャーナリストとして、現時点で発表されている資料と、トヨタ、ダイハツ関係者に対して行った取材をベースに言えるところまでを考察を試みたい。
また併せて、広く自動車ユーザーや、自動車産業関係者に向けて、同じ過ちを繰り返さないためにも、今回の不正の背景についても検証可能な範囲で考えて行きたいと思う。それとここからはなかなか難しいがこの問題の収束が可能かどうか。可能だとすればどういう形なのかを書かねば記事がまとまらないだろう。難題だがやってみよう。
まず、この記事の限界について、第三者委員会の報告書でも以下の様に記載されている。硬くて面白くもない文章なので、面倒な人は3の後に筆者の意訳をつけておくのでそこまで飛ばしても良い。読むのが苦痛なこの資料は162ページもあり、記事を書くために何度も読んだ筆者も正直嫌な正月を過ごした。
第6 留意事項
1 任意調査の限界
当委員会の調査は、法令上の権限に基づく直接強制または間接強制の強制力を伴うものではなく、関係者の任意の協力のもとで実施されたものであり、仮に関係当局が法令上の権限に基づいて調査・検査を行った場合には当委員会の認定とは異なる事実関係が明らかになる可能性がある。
2 法規適合性及び技術的な問題への対応(抜粋)
当委員会は、第1次公表及び第2次公表の対象となった事実関係の調査を行ったが~中略~ダイハツの見解に加え、トヨタ及び~中略~TRI(ドイツに本社をおく国際的技術検査機関のテュフ・ラインランド・グループの子会社)の見解を確認した。トヨタがダイハツの完全親会社であることを踏まえトヨタの見解についてはその内容の客観性や信用性を慎重に評価した。~中略~不正行為が対象車種の法規適合性に影響するか否かの検討はダイハツが行って必要に応じて当局に報告すべきものである。そのため当委員会が不正行為を認定した車種について、直ちに法規適合性等が否定されるものではない。~後略~
3 調査の網羅性についての限界(抜粋)
~前略~任意調査の限界や証拠の散逸等に伴う限界があり、ダイハツにおいてそれ以外の類似案件が存在しないことを保証するものではない。仮に、本調査報告書提出後に類似案件が発見された場合、ダイハツは、迅速かつ適切に調査を実施した上、当局に報告すべきである。
ここで第三者委員会の主張を要約する。
・第三者委員会には、警察のような捜査権限があるわけではないので調査と言っても限界がある。やるべきことはやったがご理解のほどを。
・直接的な調査は、ダイハツとトヨタ、外部の第三者である独テュフ社の子会社、テュフ・ラインランド・ジャパン(TRJ)の見解を基礎とするが、当事者のダイハツはもちろんのことトヨタは親会社なので、その客観性と信用性を慎重に評価した。
・任意調査の限界や、証拠の散逸などもあるので、これで全ての不正を完全に調査しきったとは言い切れないが、できるだけのことはした。
・調査はあくまでも不正の有無に限られ、ここで言う不正とは、すなわち製品が法規適合する性能を有しないという意味ではない。
・公的な捜査の結果、新たな問題が発覚することはありうるが、その場合はダイハツがしっかり調査し、当局に報告すべき。
という5項目である。
ちなみに委員会は今回の174項目を3つの不正累計に分類した。
1. 不正加工・調整類型(28件)
試験実施担当者等が、系的に、車両や実験装置等に不正な加工・調整等を行う行為
2. 虚偽記載類型(143件)
試験成績書作成者等が、実験報告書から試験成績書への不正確な転記を行うなどして、意図的に、虚偽の情報が記載された試験成績書を用いて認証申請を行う行為
3. 元データ不正操作類型(3件)
試験実施担当者等が、試験データをねつ造、流用又は改ざんするなどして、意図的に。実験報告書等に虚偽の情報を記載する行為
不正の例に見る「だらしなさ」
さて、筆者自身がこの報告書を読んでの印象は、「だらしない」の一言に尽きる。不正の内容を見ていると、例えばダイハツ ロッキー ハイブリッド/トヨタ ライズ ハイブリッドの側突試験では、試験車両が2台しか用意できないことは最初からわかっていた。にもかかわらず自社試験で左側のテストを行い、立ち会いテストでもまた左側のテストをしてしまった。