オートマチックフルードは10万km無交換などで交換しないことが多いが、オイルは確実に劣化していく。最新の全量交換ならスラッジも含めてリフレッシュが可能だ。
◆ATFは無交換で良いと言うけれども……
オートマチックトランスミッションのオイル(フルード)は多くの場合、10万km無交換など、ほぼノーメンテナンスで使える、ことになっている。たしかに使えるが、オイルなので徐々に劣化する。とくに新車時はスラッジが発生するので、オイルは汚れやすい。フィルターやマグネットで鉄粉や異物は一応除去しているが、抜いてみると真っ黒になったオイルが出てくるのが普通。オイルが黒いだけならいいが、その性能をスポイルしているのも事実。オイル交換をすると確実にシフトショックが少なくなり、伝達性能も上がってクルマは速くなり、走りやすくなる。燃費もよくなる。そして、壊れにくくなるとメリットしかないのだ。
しかし、交換が大変なのがATFの特徴。オートマチックミッションはいわゆるマニュアルミッションのように、釜の中にオイルが溜まっていて、そこにギアが浸かっている構造とは異なる。オイルパンのほかに、迷路のような複雑な油路が多数存在して、そこをオイルが満たしている。なので、オイルパンのオイルを抜いても全量の半分ほどしか抜けないのである。
そこでATF交換ではオイルを抜いて、抜けた分を補充してしばらくエンジンを掛けてオイルを回し、またオイルを抜いて、新油を入れてエンジンを掛けてオイルを回しを繰り返して、徐々に交換していく。複数回繰り返すことでほぼ新油に交換することができる。逆に言えば、すべてのオイルを交換することは構造的に難しいのだ。
◆オイル交換時にスラッジが舞うという意見もある
この交換時にオイルを抜いて、上からオイルを足していく。このオイルを足した時にオイルパンの中に堆積した汚れ(スラッジ)が舞い上がってしまい、それが油路に流れていって不具合を起こすことがあるという。そういったことがあるので、過走行車ではATFは交換しないほうが良いという意見もある。10万km近く走ったクルマでは、ATF交換作業を見送る整備工場も少なくない。とりあえず動いているならトラブルが起きるよりはいいので、そのまま乗りましょうという判断だ。
それによってトラブルが起きてしまっては確かに損である。だが、それほどまでに汚れてしまったオイルほど交換したいわけで、効果も大きいだろう。そこで最近増えているのが圧送による全量交換作業だ。これはオートマチックの油圧ラインの途中に機械を割り込ませることで、その交換専用機械から新油を送る。エンジンを止めた状態で油路の中に新油を送り、古いオイルはその機械に回収されていく。圧力でオイルを送り込むことで、理論的に全量交換が可能なのだ。
そして、ある程度圧送交換して、すべてが新油になったら、今度は圧送してATから出てきたオイルを回収して循環させる。回収したオイルをしばらく圧送し、フィルターを通して循環させていくのだ。これを行うことで。油路に残ったスラッジなどを時間を掛けてフィルターで回収する。全量交換に加えて、内部をすすぐようなイメージでスラッジを回収してトラブルを防ぎつつ、オイル交換ができるのだ。このシステムは「トルコン太郎」と呼ばれる機械で行われることが多く、そういったATのメンテナンスを推奨するショップが増えてきているのだ。
◆ATFにもチューニングオイルも存在する
基本、オイル交換には純正オイルを使う。ATFは細かく指定されていて、適合しないオイルを使うと不具合が起きることもあるのだ。しかし、そういった適合を取得した上で、カスタマイズされたATFも存在する。たとえば、伝達力がアップしたものでは、加速性能がダイレクトになって加速がよくなるなど、そういったスポーツATFもある。使い方にマッチしたオイルにすることで、その特性を変化させることもできる。そういったチューニングも可能になってきている。今や、ATだからといってスポーツ走行できない時代ではなく、2ペダルでも十分にスポーツできる。ならば、チューニングで使う用途に合わせ込むのは当然のことである。そういったカスタマイズも可能になっているのだ。