◆どこまで安全につくればいいのか?ホンダ『レジェンド』の運転自動化レベル3の登場、山間地などに於けるレベル4での実証実験~実装。やっと自動運転が身近に感じられるようになってきた。同時に、技術者のあいだで言われている言葉がある。“How safe is safe enough?”どこまで安全につくればいいのか?現在、私たちが使っているクルマは、道路運送車両法(国交省)によって、安全に走らせられるための基準が決められている。人間のドライバーが、ハンドルやペダル操作をすれば、それに応じて正しく機能することが担保されているのだ。操作する人間のドライバーは、道路交通法によって安全に運転することが求められている。つまり、指示(人)+動作(車両)。これに対して自動運転は、人間のドライバーがいない。つまり、指示(車両)+動作(車両)。人の部分まですべてを車両が担うことになる。では、人が車両に入れ替わった部分は、どんなドライバーを想定しなければいけないのだろうか。◆「有能で注意深い人間ドライバー」とは2021年5月21日に、名古屋大学COI法制度整備ユニットが「自動運転の社会実装に伴う法律問題を考えるシンポジウム」を開催した。登壇者の一人、(独)自動車技術総合機構 交通安全環境研究所、自動運転基準化研究長の河合英直氏によると、How safe is safe enough? の問いに対して、国際的な車両の基準を検討する国連WP29では、2019年6月に骨格を作ったという。ポイントは大きく3つ。(1)合理的に予見可能であり、かつ、防止可能な傷害または死亡をもたらす交通事故を起こさないこと。(2)ドライバーや他の道路利用者に対して、不合理な安全上のリスクがなく、道路交通規則を確実に遵守すること。(3)少なくとも、有能で注意深い人間ドライバーがリスクを最小限に抑えることができるレベルまで確保されていること。である。うーむ、骨格を作ったわりには、解釈次第でいかようにもとらえることができる玉虫色の内容である。(1)の「合理的に予見可能」とは、停車中のバスの影から子どもが飛び出してくるかもしれないから予見しましょうね」というようなこと。(2)の「道路交通規則を確実に遵守すること」も、免許を持っている人間なら当然のこととして受け入れられる。(1)も(2)も、人間のドライバーにも当然、求められていること。ここまでは感覚的に人間と同じなので、なんとなくわかる。問題は、(3)である。「有能で注意深い人間ドライバー」って……いったい、だれ?◆免許とりたてレベルの自動運転車両、は許されない免許とりたてのドライバーは、あきらかにへたくそだ(はっきり言おう。へただ。ついでに、注意深くなれるほど余裕もない)。それでも、人間のドライバーであれば、免許さえあれば公道を運転することができる。でも、自動運転ならどうだろう? 免許とりたてレベルの自動運転車両がよろよろ走っていたら、少なくとも私は怒る。事故なんか起こしたら、ふざけるなと思うことだろう。河合氏によると、各国の関係者は一様に、「有能で注意深い人間ドライバー」をどう定義するかで悩んでいるという。悩むような骨格を作るWP29はいかがなものかと思うけれど、ここから各国が議論をし、ふたたびWP29に持ちより、具体的な数値などに落とし込んでいくんだろうけれど。免許とりたてよりは、確実にうまい自動運転車であってほしい。でも、F1ドライバー並みの動体視力と判断力とハンドル&ペダルさばきを求めると、いつまでたっても完成しないし、ものすごく高額になりそうだ。ただ、そもそも、どんなにいいセンサーをつけて、すごいコンピュータで判断&作動させたって、最後はタイヤの限界を超えたら事故は起こる。目の前に飛び出してきた物体に対してどれだけ即座に反応しても、止まらないものは止まらない。事故は起きるのだ。How safe is safe enough?技術を積み重ねながら悩んで決めるには、ものすごく時間がかかりそうだ。いっそのこと、ある一定数のドライバーのデータをとって、理想的なサンプルを見つけるほうが早いのではないかと思ってしまう。もちろん、理想的ってなに?と問われると、これまた定義が大変そうだけれど。自動運転の目的のひとつは、事故削減である。少なくとも「有能で注意深い人間ドライバー」の定義が、業界の底辺をさまよう私よりも下手なレベルで決着しないことを願うばかりである。岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。
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