その事故は「目」が原因かも…日本初の『運転外来』に行ってわかったこと【岩貞るみこの人道車医】 | CAR CARE PLUS

その事故は「目」が原因かも…日本初の『運転外来』に行ってわかったこと【岩貞るみこの人道車医】

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日本初、眼科の「運転外来」を担当する西葛西・井上眼科病院 副院長の國松志保氏
  • 日本初、眼科の「運転外来」を担当する西葛西・井上眼科病院 副院長の國松志保氏
  • 運転外来の様子。モデルは、このドライビングシミュレータの検査をサポートする視能訓練士さんにお願いしました。
  • ドライビングシミュレータ。シンプルに正しく診断できるよう、ハンドル操作は行わずにアクセルとブレーキだけを操作する仕組み。
  • ハンドルなどが取りつけられている部分は、ホンダの技術者の手作り、一品もの。
  • アイトラッカー。これでドライバーがどこを見ているのか視線をキャッチ。
  • アイトラッカーでキャッチした視線を、画面上に赤丸で表示。運転しているあいだの映像はすべて記録され、終了後に國松先生といっしょに見ながら確認できる。
◆日本初の運転外来に行ってみた

今日の取材の舞台は、西葛西・井上眼科病院である。最近、老眼が進んじゃって……って、そうではない。ここには眼科医療機関では日本初の運転外来があるのだ。

運転外来。緑内障や網膜色素変性など視野が狭くなる病気をもつドライバーが、なにが見えてどこが見えづらくて、ならば、運転するときにどのように注意すれば、より安全に運転できるのかを専用のドライビングシミュレーター(以下、DS)を使って検証し、助言と指導をしてくれるところである。

運転外来を担当するのは、副院長で医学博士の國松志保氏である。國松氏が運転外来を作ったきっかけは、以前いた病院で、来院した患者の生活状況を問診していたときのこと。「人身事故を起こした」と告白され、事故状況を詳しくたずねたとき、病気により視野が欠損しているために起きた事故ではないかと感じたことからだ。

このことを数字で証明すべく動いていると、國松氏の活動に共感したホンダが自社で持っていたDSのプログラムを、視野欠損や視野狭窄(しやきょうさく)を洗い出せるものに作り変えてくれた。國松氏はこのDSを使って検証を行ったところ、上の方が見えない人は信号無視による事故を起こし(信号が見えない)、左下が見えない人は、左から出てきた歩行者や自転車と接触しており、「突然出てきた」と感じていることが証明されたのである。

ハンドルなどが取りつけられている部分は、ホンダの技術者の手作り、一品もの。

◆緑内障の視野欠損は「あるべきものが消える」

運転外来は、まず、診察室でどこが欠損していて見えない、もしくは見えにくいのかを確認し、それを元にこのDSを使って、欠損部分があるために事故を起こしやすいパターンがあることを体験してもらう。そして、実際の運転では、どのような場面に注意したらいいのか助言してもらうというものだ。

緑内障は、視野のあちこちが欠損していく病気だ。放置すると、最終的に失明することがあるけれど、早期に発見できれば進行を遅くすることができ、一生困ることなく過ごすことも十分可能だ。40代から発症するケースも多いのに、左右別々に異なる部分が欠損するため気づくのが遅れるというから悩ましい。

事実、「見えにくい」と言って診察に訪れる人は全体のわずか5%。あとは人間ドックでひっかかるか、コンタクトレンズを作るときに偶然わかるという。ただ、人間ドックに行かずコンタクトレンズも作らない私のような人間は、この網にひっかからない=怖い。

緑内障の視野欠損は、視界のあちこちに黒い影ができるわけではなく、「あるべきものが消える」のだそうだ。欠損して見えない部分を、脳が(ご丁寧に)補ってくれるからである。例えば、青空をバックにした信号機なら、信号機そのものが消え、視界には青空だけが広がっているように見える。まさに消えた信号機である。

緑内障だけではない。先天性の病気である網膜色素変性も、視野狭窄になる。こちらは、視野が周辺から中心に向かってどんどん狭くなっていくのだ。こちらも現時点では治療法が確立されていない。

運転外来の様子。モデルは、このドライビングシミュレータの検査をサポートする視能訓練士さんにお願いしました。

◆視点を動かすことで欠損している部分を補う

今回は、診察室でDSを体験させてもらった。幸いにも私は事前の診察では異常なしということだったが、視野狭窄メガネで疑似体験させてもらうと、信号は見落とすわ、いきなりわきからクルマが出てくるわで、ほんの数分のプログラムで大事故だらけになってしまった。

一方、緑内障の患者さんの運転を見学させてもらったところ、患者さんは、目をよく動かし(アイ・トラッカーがついていて、どこを見ているか赤い点でわかるようになっている)、とても慎重に運転し、トリッキーなプログラムにもかかわらず事故ゼロで終えていた。

國松氏によると、「視点を動かすことにより、欠損している部分を補い、より早くまわりの動きに気づくことができる」という。

ここで患者さんに、なぜ視点を動かしたかをたずねると、

「なにかが出てくるかもしれないと、常に思いながら運転していた」

とのこと。実は、これがとても大切な心構えだという。

國松氏は「ドライバーといっても、性格は人それぞれです。事故を起こさない人は『わきから誰か出てくるかもしれない』と思って周囲に気を配る。かたや横柄な人は『出てくるわけはない』と思って、まわりを見ない」のだそうだ。まわりに気を配り運転することは、目の病気に関わらず大切なことである。

アイトラッカーでキャッチした視線を、画面上に赤丸で表示。運転しているあいだの映像はすべて記録され、終了後に國松先生といっしょに見ながら確認できる。

◆40歳を過ぎたドライバーは眼科受診を

視力や視界の衰えがあれば、周囲の動きに対する発見が遅れるため、気配り運転がさらに大切であることは間違いない。これに加齢が加われば、さらに反射神経だって鈍るわけだし。

國松氏は「40歳を過ぎたドライバーは、一度は眼科を受診してほしい。自分の目の状態を知ってもらうことで、悲惨な事故を減らしたい」という。

現在の免許制度は、視力が両眼で0.7以上(かつ、一眼でそれぞれ0.3以上)ある場合は、視野検査はしない。そもそも、免許制度の視力検査は、病気を発見するものではないのである。ここは、自分で行動するしかない。まずは、セルフチェックをお勧めする。「緑内障」「セルフチェック」と検索すると、パソコン画面を使ったセルフチェックができるところもあるので、ぜひ。

協力:西葛西・井上眼科病院

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。
《岩貞るみこ》

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