【岩貞るみこの人道車医】自動運転は「医者」を動かすか「患者」を動かすか | CAR CARE PLUS

【岩貞るみこの人道車医】自動運転は「医者」を動かすか「患者」を動かすか

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自動運転で「患者を動かす」方がサービスとして成立する可能性がある。写真は福祉車両のイメージ
  • 自動運転で「患者を動かす」方がサービスとして成立する可能性がある。写真は福祉車両のイメージ
【医】技術が先か、サービスプランが先か

2018年2月5日。今年度第2回、内閣府SIP自動走行システム主催の市民ダイアログが開催された。今回のテーマは「未来社会とMaaS(Mobility as a Service)」である。いくら技術が進歩して完全自動運転の未来になっても、それを使ったサービスが展開されなければなんの意味もない。

単に今のクルマの使い方が自動になるだけでは「クルマは自分で操作する方が楽しい」「人間の運転能力が退化するだけ」という議論で終わってしまうからだ。そうじゃない。自動運転は、社会イノベーションを起こす。そのためには、現在の固定概念にとらわれることなく社会のさまざまなニーズに応えるためのサービスを編み出していく必要がある。

技術が先か、サービスプランが先か。

こういう技術があるからこんなサービスの可能性がある反面、こうしたサービスを作るには、こういう技術が必要と、技術とサービスはからみあっている。お互い、しかるべきタイミングでうまく成長できればいいのだけれど、残念ながらいま現在、どんなサービスが求められているのか、という部分の議論は圧倒的に遅れているのだ。

◆技術者だけで「商品」は作れない

サービスは商品である。技術者は、製品は開発できるけれど、技術者だけでは商品は作れない。大きな企業になればなるほど、技術者は技術開発に専念し、商品は別の部署が担当する。ところが現在、自動運転に関しては、技術者がサービス(商品)まで想像しながら取り組んでいるから無理がある。

以前、自動運転の一環で歩行事故の低減を目的に、歩行者のナナメ横断を防ぎたいという技術者と話をしたとき、彼らの解決策(サービス)は「歩行者がナナメ横断をしようとしたら、持っているスマホから、警告音を出す」だった。もしもその場にハリセンがあったなら、即座につかんで思いっきり張り倒していたことだろう。

違う。

ナナメ横断する常習犯は、スマホからぶーぶー警告音が出たところで、従うわけがない。というかお金を払ってまでそんな機能を手に入れるはずがない。効果の期待できないサービスに対して、日本を代表するような技術者が時間を無駄に費やそうとしていたのかと思うと、彼らの雇用主はなにやってんだと、まさにハリセンでひっぱたきたい思いだ。もっとちゃんと市場ニーズを分析してサービスを提案できるプロといっしょに仕事させて実力を発揮させてあげようよと心の底から思ったものである。

どんなサービスが求められているかは、現場の声を聞くしかない。そして、実現するためには、クルマだけがいくらがんばっても無理なものもある。ゆえに、周囲を巻き込んでいく必要があるのだ。関係するプレイヤーと諸問題を考えた結果、ユーザーが求めるものと実現可能性があるかどうかの答えを出し、方向修正することもそろそろ始めなければならない。

ひとつの例が、訪問診療だ。

◆「楽に診察を受ける」ために自動運転ができること

訪問診療は、過疎地や高齢化社会をはじめ、要望の声を多く聞く。もしも、家まで医師と看護師がきてくれたら、介護している家族の負担は大幅に減るからだ。

でも、考えてみてほしい。医師と看護師というスキルを持った人たちの貴重な時間を、「移動」などに費やさせていいのだろうか。今後は、高齢者が増加するうえ、厚労省は病院に患者集約ではなく、自宅介護へと舵をきっている。医師がすべての家をまわり十分な診察をするためには、いったいどれだけの医師の数が必要になるのだろうか。

いくら自動運転のクルマの完成度が高くなり、医師がクルマのなかで別の仕事をしながら移動できるようになったとしても、一日で診られる患者の数には限りがある。家と家が離れている地方都市ならばなおさらだ。となると、厚労省は医師、特に訪問介護の医師を増やす政策をとらなければ、このサービスは成立しないということになる。でも、医師がどの病院、どの科の医師になるかは本人次第なので、厚労省がどれだけがんばっても医師の数が確保できない可能性は大いにあるのだが。

在宅介護で、医師が自宅にきてくれると嬉しい、という気持ちはわかる。でも、コストや人材面を考えると、医師を動かすのではなく患者を動かすほうが、医療サービスとして成立する可能性が圧倒的に高い。自動運転の技術がじわじわと進化するなか、どうすれば「少しでも楽に診察を受けられるか」という目的に対して、思いをぶつけあい、現状を理解しあい、コストを考え、話し合っていく場所や機会がもっと必要だと思う。

自動運転は、すべての移動に関する夢や希望を100%かなえられるものではないけれど、サービスをうまくプランして活用できれば、よりよい生活は実現するはずなのだから。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。9月よりコラム『岩貞るみこの人道車医』を連載。
《岩貞るみこ》

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