少ない時でも年間1000台以上が売れる、事実上のルノー・ジャポンの屋台骨、『カングー』が、またその商品力を一段とアップさせた。口悪く言えば、所詮は商用車だ。ところがその商用車を見事にお洒落でポップなファミリーカーに仕立て上げたのは、何とこの日本市場。ファンイベント「カングージャンボリー」に日本中から馳せ参じるユーザーは4000人以上を数え、さながらカングーのピクニックパーティー。その様子はフランス本国はもとより、他のマーケットも注目する一大イベントに成長し、カングーの新たな魅力発掘の原動力となっているというから、ルノー・ジャポンがカングー販売促進に果たした役割は非常に大きく、同時にカングーの魅力を発掘した日本のユーザーも偉い。1.2リットル直噴ターボがデビューしたのは2年前。当時は6速MTのみとの組み合わせ。ATは、正直時代遅れの4ATが、古い1.6リットルエンジンと組み合わされていた。カングーユーザーはズバリ、性能やメカニズムには無頓着で、この1.6リットル+4ATで十分に性能的に満足していたようだ。だから、性能を求めるなら直噴ターボとMTの組み合わせと、見事にその色分けが鮮明だったそうである。新しい直噴ターボとEDC(エフィシエント・デュアルクラッチ)の組み合わせは、言わばこの両車を融合したようなもので、性能を求めたい人も、イージーな走りを求めたい人もどちらもフィットする性格を持っているモデルといえよう。性能を求めたい…といってもそんな華々しい性能は初めから持っていない。カタログには2リットルクラスのトルクを実現、と派手に謳われているが、いつの時代だよ?と思わず突っ込みたくなる。机上の数値は115ps、190Nmで、確かにトルクの数値は2リットルNAクラスかもしれないが、今時2リットルNAのクルマを探す方が難しいくらい、ガソリンはダウンサイジングターボもしくはハイブリッドが主流で、加えてディーゼルは1.5リットルや1.6リットルだって平気で240~300Nmを謳う時代だから、正直なところカングーに性能を求めてはいけない。ところがである。いざ走り始めてみて、あれ、カングーってこんなに速かったっけ? というのが偽らざる印象だった。もっとも一人乗りだったから、という理由も大きいと思う。本来のカングーは4人家族で荷物を満載して走るというイメージの方がカングーらしいし、使い方としても正しい。がらんどうの広大な室内空間は、ふと後ろを見た時にかなり寂しい感じが漂う。しかし、駿足。そう呼んでも差し支えない性能を持っている。従来のもったりとした4ATとは打って変わって、高速での追い越しなども瞬時にATモードでも適切なギアを選んでグイグイ加速する。新たにJC08のモード燃費が公表され、それによれば14.7km/リットルだそうである。MTで標準装備だったスタートストップ機能は付かない。一体何故?一方で、試乗場所に選ばれた山中湖湖畔の周遊道ではひらりひらりと華麗なコーナーワークをこなしてくれる。全高は1810mmもあるノッポだが、何故か実にどっしり感が漂うコーナリングを見せる。かなり重心高が低い印象をその挙動から感じさせてくれるから、非常に安心感高い。今時珍しくなった65扁平の195サイズのタイヤと、これも珍しい15インチのテッチンホイールとホイールキャプの出で立ちだが、このスペックでも侮ってはいけない。はっきり言って、その挙動は安定して安心感のあるもの。そして言うまでもない、特有の快適な猫足だ。ラゲッジ空間はとてつもなく大きく、これなら仕事でも遊びでも文句なしである。のほほんとしたスタイリングとシャキッとしたメカニズム、そして不思議にどっしりとした安定感のある乗り味。カングーの商品力は一段と高まった。■5つ星評価パッケージング ★★★★★インテリア居住性 ★★★★★パワーソース ★★★★フットワーク ★★★★おすすめ度 ★★★★★中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来38年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。
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