【ジャガー F-PACE 試乗】頭文字“F”に偽りなし…武田公実 | CAR CARE PLUS

【ジャガー F-PACE 試乗】頭文字“F”に偽りなし…武田公実

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2013年9月に開催されたフランクフルト・ショーに、まずはコンセプトカー『C-X17』として参考出品。その2年後となる2015年の同じくフランクフルト・ショーに、生産モデルとしてワールドプレミアに供されたジャガー『F-PACE(Fペイス)』が、ついに日本国内でも正式リリースされることになった。

SUV、ないしは本格的クロスカントリー4WDの代名詞とも言うべきランドローバー社とともに企業グループを組むジャガーが、あえて同社初の試みとして送り出してきたSUVがいかなるものなのか? 山梨・小淵沢周辺を舞台としたテストドライブにて、その真価を検証することにしよう。


◆ジャガー的スポーティとしなやかさを極めた走り

ジャガー期待の新星「F-PACE」でまず感銘を受けたのは、現代のジャガー・テクノロジーの象徴とも言うべき、アルミ中心のアーキテクチャーが採用されたボディのデザイン。

ロングノーズの流麗なプロポーションや、ドイツのライバルに比べると装飾はシンプルながら面の美しさを感じさせるスタイルは、同じ「ジャガーF」の名を冠する2シータースポーツカー『F-TYPE』に継承されたジャガー往年の名作「E-TYPE」のエッセンスをも色濃く感じさせ、あくまで個人的な感想を言わせていただけるならば、当世大流行のSUVの中でも随一と思わせる。イアン・カラム氏によるジャガーのデザイン革命は、このF-PACEとともに、ついにクライマックスに達したかに感じられてしまったのだ。

今回の試乗会においては、既に『XE』と『XF』に搭載され、日本市場でも高い評価を受けつつある新時代のクリーンディーゼル「インジニウム」を組み合わせた「20d PRESTIGE」、そして二種が設定されたガソリンエンジン版の中でも高性能版に当たるモデル、3リッターV6スーパーチャージャーを380psまでチューンアップした「F-PACE S」の二台を、相次いでテストドライブするチャンスに恵まれた。

まず先に乗ったのは「20d PRESTIGE」。その名が示すとおり排気量は2リットルと小さいものの、最高出力は180psを発生。さらに最大トルクはスーパーチャージャー付ガソリンV6の450Nmに拮抗する430Nmを獲得しているなど、少なくともスペックの上ではなかなかの高水準にある。

今回の試乗コースとなったのは、緩やかな上り坂のワインディングロードが多くを占める「八ヶ岳周遊道路」、そして高速道路のクルージングを試すことができたが、いずれのステージにあっても「インジニウム」ディーゼルは好印象。XFの1720kgに対して1920kgまで増加してしまった車両重量などものともせず、あらゆる状況においても小気味よい加速感を示してくれる。また高速道路においては、スムーズな8速ATも相まってトルクフルかつ快適なクルージングを実現している。

しかし「20d PRESTIGE」で何より感銘を受けたのは、ディーゼル車らしからぬ静粛性である。キャビン内にてディーゼル的なノイズを感じるのは、アイドリングや低速からの加速時などの限られた状況のみ。スムーズにシフトアップしてゆく8速ATの能力も合わせて、ひとたび一定のスピードに乗ってしまえば、ディーゼルを意識することは事実上皆無である。加えてXEやXFのインジニウムディーゼル版では若干気になった、スタート&ストップシステムの再始動時に発生する大きめの振動も、かなりのレベルまで解消されていると感じられた。

またこれはすべてのF-PACEに言えることだが、路面からの絶対的距離が遠いせいか、あるいはシャシーのチューニングがさらに進んだのか、ロードノイズがXEはもちろんXFよりも低いのも大きな魅力と言えるだろう。

これまで筆者が事あるごとに「新時代のネコ脚」と評してきた新型XFのサスペンションは、アルミ製ストラクチャーの利点を最大限に生かした軽量かつ高剛性のボディに加えて、サスペンションアーム周辺の剛性を高めることで、ソフトなスプリングであっても高度なロードホールディングを実現したもの。一方、XFとアーキテクチャーやサスペンションの一部を共用するF-PACEでは、さらに物理的なバネ上重量の増大が効いているのか、高い重心にもかかわらず素晴らしい「ネコ脚」。しなやかなハンドリングと乗り心地の高度なバランスを見せつける。

このシャシーチューニングの出来ばえは、現代のあらゆるSUVの中でも、かなり上位に属するものと思われるのだ。


◆頭文字“F”に偽りなし

一方の「F-PACE S」に搭載される3リットル+スーパーチャージドV6は、「XF S」や「F-TYPE S」と事実上同一のチューニング。抜群の切れ味と炸裂するトルクは、1980kgというヘビー級のウェイトをまるで感じさせることなく、0-100km/h加速5.5秒を標榜するパフォーマンスを実感させてくれる。

また大パワーと大径タイアに即したサスペンションチューンの妙か、ワインディングロードでのハンドリングも素晴らしい。感動的なまでのしなやかさは20d PRESTIGEと変わらないが、F-PACE Sでは、回頭性やロードホールディングともに一枚上。スポーツカーさながらのハンドリングを高めのアイポイントで味わうという、ちょっと不思議なドライビング体験を可能としてくれる。

そしてアクセルペダルを深く踏み込むことのできるワインディングロードにて、筆者はさらなる感動を覚えることになった。中速域からアクセルを踏み込むと聴こえてくるのは、マフラーのタイコの中で共振するような「ヴォーン」という咆哮。直感的に似ていると思ったのが、ボディスタイルと同様ジャガーの歴史的アイコンの「E-TYPE」。しかもシリーズ1ないしはシリーズ2に搭載された直6DOHC「XK」ユニットのサウンドである。

読者諸兄には「アナクロ志向が過ぎて耳がおかしくなったのでは?」などと思われてしまいそうだが、テストドライブ中に楽しくなってしまった筆者が何度試してみても、やはりE-TYPEのような「ヴォーン」が聴こえてくる。あくまで想像だが、ジャガーの技術陣は明らかに意識してサウンドチューンを行ったものと思われる。こんな遊び心と自社の傑作への誇りこそが、ジャガーF-PACE Sの真骨頂と思われるのだ。

ところで「F-PACE」という少々難解なネーミングは、ジャガー創業時の理念である「Grace, Pace, and Space(優雅さ、速さ、広さ)」に由来したものとのこと。今後ジャガーからSUV系のモデルが生み出される際には、原則として「PACE」の名を冠するとのことだが、筆者が最も気になるのは「F」の文字の方である。

ジャガー・ランドローバー・ジャパン社は、F-PACEをして「究極的に実用的なスポーツカー」と公言して憚らないようだが、ボディスタイルやドライブフィールなど人間の感性に訴えるパートにおいては、その自信たっぷりの物言いも充分に理解できよう。旧い常識からすれば、よりスポーティな存在であるはずのスポーツサルーンたる「XE」や「XF」を飛び越して、2シーターのピュアスポーツである「F-TYPE」に近いプレゼンスが感じられてしまうのだ。

なるほど「F」のイニシャルに、偽りは無いようである。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

武田公実|自動車ライター/イタリア語翻訳家
1967年名古屋市生まれ、法政大学法学部政治学科卒業。コーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)でセールス/広報を担当したのち単身イタリアに渡り、旧ブガッティ・ジャパンに就職。その後都内のクラシックカー専門店勤務を経て、自動車ライターに転身した。現在では複数の自動車博物館でキュレーションも担当するほか、「浅間ヒルクライム」などのクラシックカーイベントにも立ち上げから参画している。
《武田 公実》

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