「信号が見えていない」という可能性…眼科医が指摘する事故の原因と対策【岩貞るみこの人道車医】 | CAR CARE PLUS

「信号が見えていない」という可能性…眼科医が指摘する事故の原因と対策【岩貞るみこの人道車医】

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「信号が見えていない」という可能性…眼科医が指摘する事故の原因と対策(写真はイメージ)
  • 「信号が見えていない」という可能性…眼科医が指摘する事故の原因と対策(写真はイメージ)
  • 上は視野検査の結果。黒い部分が見えていない。左上は正常な人の視野(黒い部分は盲点。全員にある)。右上は、視野障害があり見えない部分が広がっている人の視野。二人ともそれぞれ、視力は1.2あるものの(免許更新に問題がない)、視野障害がある人の左右両眼を重ね合わせた視野は、ちょど信号を見るあたりが欠けているため、実際には信号そのものが消えて見える。

「信号が見えていない」という可能性

信号がからむ事故は昔からあるが、最近はドラレコが装着されているクルマが増え、明らかに赤信号なのに突っ込んでいる映像を報道などでよく見るようになった。

2022年9月にも、同様の事故が発生した。栃木県にあるホンダカーズ野崎が持つ車両が、信号無視のクルマとぶつかったというものだ。ホンダカーズ野崎の松本正美店長は、F1全盛期に無限ホンダエンジンを設計していた「F1店長」として有名な方である。そして事故映像を見て私はのけぞった。

「ぎゃー! うそ、タイプRなの?」

そう、『シビックタイプR』。プレミア付きの名車である。映像を見て、もったいない! と、つぶやいたレスポンス読者の方も多いことだろう。

以前なら赤信号無視は故意によるもののほか、よそ見をしていたのではとか、ぼーっと走っていたんだろうと言われる事故である。しかし現在、事故原因はもっと多角的に調査されはじめている。そのひとつが、健康起因事故だ。よく言われるのは、病気で意識を失っていたのではないか。睡眠時無呼吸症候群で一瞬、深い眠りに落ちていたのではないかといった意識障害である。

しかし、シビックタイプRの事故の場合、加害者には意識があったようだ。ならば、原因は絞られる。疑うべきは、目の病気だ。

「加害者は、信号が見えていなかったのではないか?」

もちろん、単なる信号の見落としである可能性は否めない。けれど、加害者の目の検査をするべきだと強く訴えるのは、西葛西・井上眼科病院の副院長、國松志保医師である。

「次に起こすかもしれない死亡事故を防ぎたい」

西葛西・井上眼科病院は、日本の眼科医療機関としては最初に「運転外来」を開設し、視野障害をきたす緑内障などの病気に特化したドライビング・シミュレータ(以下、DS)を持つ眼科病院で、國松医師はこのDSを担当している。ふだんは、緑内障を専門とする眼科医として、交通事故原因にもなる視野障害を見つけ出すべく診察にあたっている。そして、私の「急性緑内障発作を起こすヤバい目」を見つけてくれた恩人でもある(目の検査、本当に大事!)。

ここ数か月のあいだに、清掃関係者の車両が赤信号を突破して子どもをひきそうになったり、和菓子屋関係者の車両が事故を起こしたりと信号がからみ、かつ、話題になる事故が起きている。國松医師は、それらも、もしかしたら、「上方視野が欠けていて信号が消えて見えなかったのではないか」を考えるべきだという。

國松医師は言う。

「信号無視をしてクルマ同士でぶつかっても、車内は安全性が上がっているので軽傷ですむかもしれない。しかも、ドラレコがあるので信号状況も確認できます。でも、相手が歩行者や自転車ならひとたまりもないし、人にはドラレコがついてないので、真実もうやむやになってしまう。どうして、しつこく何度も、目の検査をしたいと言うのかというと、『次に起こすかもしれない死亡事故を防ぎたい』。これに尽きます。」

「見る」が正しくできなければ、判断も動作も遅れる

ハインリッヒの法則というものがある。300件のヒヤリハット、29件の軽度の事故があれば、1件の死亡重傷事故が起きるという有名な法則だ。

ホンダの事故も、清掃事業者の事故も、和菓子屋の事故も、死亡重傷事故には至っていない。けれど、もしも加害者の視野障害が原因で事故が起きていたとしたら。それに気づかずにこのまま運転を続けていたら、いつかきっと重大事故を起こしてしまうだろう。

もしもこの記事を読んだ読者のみなさんが事故にあったら、ケガの大小にかかわらず相手のドライバーに目の検査を強く勧めてほしい。そして、自分が事故を起こした場合も、もし、軽い事故であっても、今回は人のケガがない物損だけでよかったねと安心せずに、目の検査を考えてほしい。

ちなみに、自動車保険は被害者救済が基本のため、その時点で目の異常が発覚したとしても支払いには影響しない。

運転は、認知~判断~動作である。けれど、認知するための「見る」が正しくできなければ、判断も動作も遅れる。つまり、運転であれば事故になるということだ。

安全運転をしましょう、信号を守りましょうとこれまで何度も標語が掲げられているけれど、気合と根性だけでは事故はなくせない。目に異常があり必要な情報を得ることができなければ、しかもそれが本人の知らないところで進行が進んでいるとしたら、いくら気合を入れたところで重大事故はなくならないのである。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「ハチ公物語」「しっぽをなくしたイルカ」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。最新刊は「法律がわかる!桃太郎こども裁判」(すべて講談社)。

《岩貞るみこ》

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