東京都内ではトヨタの『ジャパンタクシー(JPN TAXI)』の存在感がハンパではない。2020年のオリンピック・パラリンピックを控え、ピカピカの新車で海外のお客様のお迎え準備は万端といったところだ。現在、LPGを燃料とするセダンタイプのタクシーを造っているのはトヨタのみ(※)であり、古くなったタクシーが各地でどんどん代替えされていくと日本全体が「ジャパンタクシー」になっていくかいうと以外とそうでもないようだ。※日産もNVタクシーを造っているが、商用バンの『NV200バネット』ベースであり「流しのタクシー」としての普及は今ひとつのようだ。◆日本のタクシーの保有は25万台日本のタクシーの保有は法人個人、福祉車両なども併せ合計25万台。5000万台の自動車総保有の僅か0.5%なのだが、夜間は車庫に眠っている乗用車や小型商用車と違い24時間道路を走り人々を運ぶ「働くクルマ」である。モビリティ・サービスへの貢献度は大変大きい。そのタクシーの75%がLPGを燃料としている。つまりブタンを主成分とする石油ガスを燃やし走っているのである。エンジンはガソリンエンジンとほぼ同じで価格は1リットルあたり80円前後とガソリンよりも格段に安い。コストの厳しいタクシー会社にとっては大変うれしい燃料で、長年にわたり日本のタクシー車両のディフェクト・スタンダードとなってきた。◆LPGタクシーの新車の選択肢はほぼ「ジャパンタクシー」に年間10万km以上走るタクシーは通常4~5年で代替えされるのだが、現在LPGのタクシーを造っているのはトヨタしかないため、燃費の良いLPGにこだわるかぎりタクシー会社はジャパンタクシーを選ぶしかないわけだ。ただし問題はその価格。2017年に発売されたジャパンタクシーはタクシー専用車としてミニバンの『シエンタ』をベースに開発されたもの。セダンの取り回しの良さに加え老人や子供、車椅子使用者にも優しいトールボディでもある。乗客と運転手双方に嬉しい工夫も随所になされているのだが、開発陣の力がこもった分コストもかかったようだ。旧モデルの『コンフォート』と比較すると100万円近くも高い。LPGにハイブリッドを組み合わせた新機構によって燃料費は従来車よりかなりセーブが期待できるのだが、購入時の負担が大きくタクシー会社のトップや購買担当の頭を悩ませているようだ。◆地方では普及がスローなジャパンタクシーところがこのジャパンタクシー、日産のNVタクシーと同様に国土交通省のユニバーサルデザイン認定を受けており、購入するタクシー会社には台あたり約60万円の補助金が国から出る。加えてオリンピック、パラリンピックを控えた東京は、EV、PHVと同列で上乗せの補助金を用意しており。国と都合計で100万円近い購入支援となっており、これが東京都でのジャパンタクシーへの普及が進む理由のようだ。いくつかの地方自治体においても、国家の補助金を補う形で東京に続けとばかりユニバーサルデザインの環境車普及の名目で助成金を用意しているが、その動きは自治体の懐具合によりけりのようだ。タクシー会社によっては燃費の良いハイブリッド車の『プリウス』や200万円代で買えるシエンタのガソリンハイブリッドに切り替えるタクシー会社もあるようだ。あまり儲からないと言われるタクシー車両販売。トヨタにとっては同じトヨタ内の商売なので良しなのだが、せっかくタクシー会社の意見を綿密に取り入れ開発したジャパンタクシーだけに痛し痒しといったところだろうか。◆働くクルマの燃料は現実論世界は電気自動車や燃料電池車の話題で真っ盛りだ。ここ数年に世界中がこうしたゼロ・エミッションのクルマで埋め尽くされるような錯覚を覚えてしまうが、現実はまだハイブリッド止まりでそのハイブリッドですら補助金で成り立っている事を理解すべきであろう。働くクルマのオーナーにとっては、環境車やユニバーサルデザインが社会にとって必要なのは理解しながらも、やはり購入価格や維持費が最大の関心事である。石油燃料である旧来のガソリン、ディーゼル、LPGと電気、水素が折り合いをつけながら現実を理想に変えていくにはまだまだコストも知恵も必要と言えよう。<藤井真治 プロフィール>(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。