2012年に SBTは中古車輸出ビジネスを行うためミャンマーに進出した。立ち上げを行ったSBTミャンマーの代表である長田(おさだ)氏にミャンマーにおける中古車ビジネスの課題と魅力について話を聞いた。◆9割が中古車のミャンマー自動車市場ミャンマーで流通している自動車の9割以上が中古車とみられている。その多くが日本からの中古車だ。2011年9月にミャンマー政府が中古車の買い替え推進施策を発表。その後2012年5月に個人に対する中古車輸入の大幅緩和を行った。その結果ミャンマーに大量の中古車が輸入されることになった。貿易統計データによれば、2011年の日本からミャンマーへの中古車通関台数は1万9621台であったが2012年には12万0805台と急増した。2015年の商用車を含めた日本からの中古車輸入台数は14万1066台だ。ヤンゴンを訪問したことがあればわかると思うが、道路は右側通行である。それにもかかわらず、右ハンドルの日本車が市内を占領している。バスも日本からの中古が半分以上のシェアを占めている。しかし、出入り口が左側の道路のセンターライン側にあり、危険だ。そのため右側に新たに出入り口を切り出したりしている。最近では、左ハンドルの韓国製バスで右側に出入り口のあるバスもよく見かけるようになった。◆SBTのミャンマーでのビジネス2012年2月21日に長田氏はミャンマーを訪問した。フィジビリティスタディを行い、年内にSBTミャンマーを設立してビジネスをスタートさせた。中古車解禁の大きな波に乗り、2014年の輸入台数は年間2万3900台、2015年は2万5000台となってビジネスを急拡大させた。日本からの中古車輸入市場大手に入る快進撃だ。それを可能にした理由は「早めに自ら現地に来て、会社とオフィスを立ち上げたこと。それにより現地ディーラーたちへの信頼と安心感を獲得できたため」と長田氏は指摘する。また、市場の特徴を把握し、需要に合った商品を提供するのも大事だ。ミャンマーでは結構決まった車種が輸入されている。長田氏は「ミャンマー人はみんなが乗っているのを欲しがる」という。中古車が解禁されたころは、トヨタ『マークII』、『プラド』、三菱『パジェロ』などの人気が高かったが、最近はハイブリッド車(HV)なども人気がある。直近では安い税金の関係で1350cc以下の小型車が主流になっているという。また、「日本で作られた日本車のみ欲しがる」ということも見逃してはいけない。ミャンマーは中古車輸入会社トップ3で全体の中古車シェアの40%以上を占め大手の寡占市場であった。一方で、2016年4月に入り、大手も含めミャンマーへの中古車輸入の勢いがなくなってきている。SBTミャンマーでも月間1500台ほどにまで減少している。◆方向性がみえないミャンマー政府の自動車施策2016年4月以降に突然、中古車輸入の勢いがなくなった。大きな理由として、車庫証明が2016年4月以降に認可されなくなったことが指摘されている。ヤンゴン市内の交通渋滞緩和の目的で、ヤンゴン管区政府は2015年1月より自動車購入・輸入時の車庫証明取得を義務化した。2016年4月から施策を強めた。その結果、車庫証明の申請をしても取得できず自動車の購入ができない状況になったという。ヤンゴンの、ではなく隣の県であるパゴーの証明を使って車を登録している状況もみられ混乱している。更に、6月から税金ルールが変更になり実質の増税となった。また、ナンバー取得の際の提出書類が増え、所得税の納税書の提出が必要となった。ミャンマーを訪問したことがある人であれば気がつくと思うがヤンゴン市内はやたらとタクシーが走っている。比較的取りやすいタクシーライセンスで、中古車を輸入している業者がいたためだ。それを廃止するために6月初旬に政府は、タクシーライセンスの発給をストップ。実質的にタクシーの輸入をストップした。将来的な施策としては日本車を含む右ハンドル車の輸入を禁止する右ハンドル規制も度々話題に上がっている。一方で、このような自動車関連の施策に関して「まだ政府もどのような方向性にすれば良いかわかっていない可能性がある」と長田氏はいう。そのため、自動車ビジネス関連の業者は政府の対応について様子をうかがっているという。◆SBTミャンマーにおけるビジネスの課題と展望ミャンマーでのビジネスの課題は「スタッフの採用や育成である。コロコロ変わるルールや高い税金は外部要因であり本当の課題は内部にある」と語る。仕入れや、輸送は競合他社とほぼ同じところを利用しており差別化が出しづらい。そのためスタッフの質がとても大事だという。ミャンマーでは簡単に仕事を辞めてしまう人が多く、人材には苦労すると聞く。ミャンマーには多くの企業が進出してきており就職もチャンスが多い。また家族と住んでいることが多く働かなくてもなんとかなる部分もあるのだろう。現在SBTミャンマーの新入社員には2週間の研修プログラムを受講させている。先輩社員が講師を担当し業務知識をしっかりと身につける。また、リーダーを指名し、チーム制を導入して業務を遂行している。現在10チームあるという。リーダーを育て、また新しいスタッフを育てるシステムとして活用し、スタッフの育成を重要視している。こうして育成したスタッフとともに、ミャンマー市場でのシェア50%を超える、という展望を長田氏は描いている。確かに、度重なるルール変更などで先行きの不透明感がある。しかしながら、ミャンマーの本当の魅力は市場にボリュームがあることだ。多くの市場の可能性を残しつつ、まだ手がつけられていない。首都ヤンゴンは自動車が多くなってきているが、地方での可能性もまだ大きいだろう。そこが、ミャンマーの魅力であり、同時に今後の課題となっていくのだろう。<川崎大輔 プロフィール>大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。