「ガラスは一等地」は、ジャパンモビリティショー2023におけるAGCのプレスカンファレンスでのオートモーティブカンパニー モビリティ事業開発室長・モビリティ事業本部長 大西夏行氏の言葉だ。
AGCは1907年創業の板ガラスのメーカーだ。ガラスという生活に欠かせない製品を100年以上手がけているため、現在の事業エリアも建築ガラスから電子部材、化学品、ライフサイエンス、モビリティと多岐にわたる。事業規模で2兆円以上のAGCにおいて、モビリティ事業(オートモーティブ事業)の売上高は4178億円(2022年度)。CASE革命によって自動車産業が関わる領域が広がることで、同社のオートモーティブ事業も広がりを見せている。
冒頭の「一等地」には、CASEによって広がった新しい市場や技術について要となる素材がガラス(ウィンドシールド)、という意味が込められている。シールドやディスプレイなど、ガラスはドライバーにとってあらゆる情報が得られる存在でもある。加えて同乗者にとってはエンタテインメント空間への文字通りの窓でもある。
たとえば最新のEVやCASE車両では、ヘッドアップディズプレイなどフロントシールドはディスプレイとしての機能も持つ。コンソールやインパネはフラット化、大型化が進む。マルチスクリーン、マルチファンクションは当たり前で、メインコンソールは大型のセンターディスプレイか、ダッシュボード全面のワイドスクリーンが世界の潮流だ。
自動運転カー、ロボタクシーではドアウィンドウの透過率を変化させたり、ディスプレイとして利用したりする動きも進んでいる。
自動運転では、ウィンドウにはもうひとつ重要な役割が与えられる。コネクテッド機能の性能を決めるアンテナだ。プレミアムEVではパノラマルーフが流行っているが、AGCはアンテナ(導体+集積回路)をガラスに組み込む技術を持っている。5Gや広帯域、高速通信になるほど、一般的には高周波による伝送になる。そのため、電波は金属などの影響を受けやすい。ガラス一体型アンテナは、この課題のソリューションになる。
AGCはNTTドコモらとガラス一体型の5Gアンテナを開発している。この実験はリアルタイムの遠隔操作を高速走行でも実用化しようというもの。これを応用した遠隔操作車両がラスベガスですでに営業運行を行っている。Halo.carというレンタカーの事業者が、文字通りの乗り捨てたレンタカーをオペレーターが無人遠隔操作で店舗などに移動させている。
遠隔操作やコネクテッドカーで重要なのは「切れないことだ」(大西氏)という。AGCのオートモーティブ事業、機能や利便性のほか、安全性にもこだわりを持っている。アンテナならば感度や利得(ゲイン)のような特性だけでなく、安定して接続を維持できることが重要だ。5Gの高速ハンドオーバー(移動しながらの基地局の切り替え)を可能にするのは、このようなアンテナ技術がなくてはならない。
AGCオートモーティブの3つ目の柱は、センサー関連技術だ。AGCは電子部品や半導体も手がけているが、自動車分野ではLiDARのカバーやセンサーのフィルターなどで同社の技術が生きる。一般的なガラスは赤外線を効率よく通さない。専用のカバーが必須だが、AGCはそのノウハウを持っている。近年のセンサーニーズに応じて、フラットタイプや内装パーツ形状にも対応可能なカバーなども作っている。一昔前のLiDARは内部で反射ミラーが回転するため円筒形にする必要がありサイズも小さくできなかった。しかし、最近はソリッドステートLiDARや小型化が進んでいる。OEMも実用・市販を考えると異物が突出したようなデザインは避けたい。トリムパーツ型LiDARは今後の市場が期待される。車両のマルチLiDAR化が進むなら出っぱらないLiDARは必須だろう。
AGCでは、フロントシールドの内側、あるいは一体化したLiDARも研究している。