ドアに埋め込まれたフラットなハンドルの淵を指で引っ掛けて開けるドアは長い。低い着座姿勢のスポーツシートがスーパースポーツらしくていい。ステアリングはチルトとテレスコピック機能でドライバーの好みのドラポジが造り出せる。気持ち座面の前側が上がると良い(マニュアルシート)と思う。というと、「身長150cm台のドライバーに対して、前縁を上げるとペダルへの足の角度が急になってしまい」…。量販メーカーの良心か、あらゆる体型を考慮する大変な作業が判る内容なので、これ以上は突っ込むまい。上下を潰した楕円のステアリングの左にあるエンジンスタートスイッチをON、バッテリーに電力が蓄積された状態では無音のまま。状況に応じてワッとひと吠えV6サウンドの雄叫びの場合もある。センターコンソールに並ぶ角度の付いたP・R・N・D/Mのスイッチは『レジェンド』に似るが、NSXにこそマッチしている。そのうえに位置するダイヤルは走行モード用「クワイエット」「スポーツ」「スポーツ+」「トラック」の4パターン。通常スイッチONでは「スポーツ」が選ばれ、アクセルを滑らかに浅く踏めば前輪のツインモーターが滑らかに無音のまま2モーター走行、つまりFWDだ。アクセルに力を加えると瞬時にV6+1モーターにより背後から押し出される。試乗は筆者第二の故郷、神戸。幼少の頃に自転車で走り回った地を最新のNSXで走るとは感慨深い。ポートタワーのある港の周りをEV走行でひとまわり。ハイブリッドだから当然だが、フェラーリやランボが甲高い音色で走り回る三ノ宮の街並で、この姿カタチのスーパースポーツが無音、モーター音出移動するのが不思議なのか、鋭い視線を浴びる。高速に乗る。90km/h付近までEV走行は可能だが同時にV6に点火すると、後方からV6時代のF1が迫って来るようだ。4000rpm以下では初代NSXの自然吸気V6サウンドが聞き取れ、それ以上メーターが真っ赤に染まる7000rpm以上レブリミットまでは、吸~排気が同調したような甘い、官能的なV6高周波サウンドに切り替わっている。NSXが本領発揮となるのは、じつは公道だった。サーキットはもちろん実力を示す場だが、広いコース幅をフルに使える。公道の、とくに峠では曲がりくねった道の車線から逸脱しないように操縦する。走行モードを「スポーツ+」に切り替える。するとNSX…この勢いで曲がれるか? 曲がった。さらに高い速度では? え、まだ曲がれる!! ステアリングを切る方向に吸込まれる、というフレーズは曲がるクルマで何度か使った覚えがあるが、NSXはインに吸い込まれながら上から別の力でクルマそのものを回転させるような、異次元の感覚で曲がるのだった。前輪左右を独立して駆動、減速をコントロールするトルクベクタリングの威力だが、こうした機構をホンダは数十年も前から研究開発していて、ある程度の完成度に達すると試作車に乗せられて知ってはいた。レジェンドに搭載のこのシステムは、同じ事を後輪で行い、その感触を見分けられる方なら、リアからフロントを曲げに行っている制御を見破った。NSXの凄さはステアリングの切り角に同調してトルクベクタリング制御を行う事だ。前輪に舵角が入ると内輪は減速し、外輪は駆動を強める。ブルドーザーなどキャタピラの車輌が曲がるとき、内側を遅く、外側を速く回転させる事と基本同じ。コーナーの曲率が奥で強くなる、旋回しながらそれを察知したら、ただステア角を増やすだけ。ノーズが身を捩るようにしながら入る、曲がる事に味わいがある。コーナーを速い速度のままステア操作だけで車線内をトレースする。限界が訪れるとタイヤはスキール音を発生する。が、アクセルを踏み込むとモーターがアシストするV6ツインターボが瞬時に炸裂してリアから強引に押し出し、フロントは舵角と速度に見合うトルクベクタリングを行いさらに曲げる制御は圧巻。コーナーを立ち上がると、次のコーナーまで弾かれたように瞬間移動し、ペダルと減速Gのコントロールが自然そのもののブレーキが一撃で車速を沈め、また異次元の旋回を決める。その気持ち良さたるや、前輪だけレース用のスリックタイヤを履かせるとこうなるかも!? 前輪からステアリングに伝わる入力はわずかな変化が不自然と感じさせるもの。その難題に挑戦し、克服したからステア操作に違和感はまったく感じられない。それこそが凄い事だ。試乗車にはセラミックブレーキが装備されていた。峠をフルに駆け巡っても、スチールブレーキで十分だと言える。それは誤解を恐れずに言えば、ステア操作さえ行えば、多少のオーバースピードでも曲がれてしまうから。ブレーキペダルのタッチは軽く滑らかで自然な効き味で立ち上がる。その制御もまた見事だ。NSX。多くのスーパースポーツカーにひと泡吹かせる事は間違いない。モータートルクベクタリングの実力、恐るべしである。ただクルマ全体を見渡すと、2400万円のクルマにしては突っ込みどころは内外多々ある。が、ともかくこのスーパーな一台が完成し、世に出た事が素晴らしい。“突っ込みどころ”はメーカーが重々承知していた。だからそこは変わる、進化洗練する事は間違いない。日本初、プレミアム・スーパースポーツの領域に遂に踏み込んだホンダ。その勇気ある挑戦を温かく見守ろうではないか。そのスーパーなコーナリングを読者諸兄に味わう機会を設けられないものか、画策してみようと思う。■5つ星評価パッケージング:★★★★★インテリア/居住性:★★★★★パワーソース:★★★★★フットワーク:★★★★★オススメ度:★★★★★桂 伸一|モータージャーナリスト/レーシングドライバー1982年より自動車雑誌編集部にてレポーター活動を開始。幼少期から憧れだったレース活動を編集部時代に開始、「走れて」「書ける」はもちろんのこと、 読者目線で見た誰にでも判りやすいレポートを心掛けている。レーサーとしての活動は自動車開発の聖地、ニュルブルクリンク24時間レースにアストンマー ティン・ワークスから参戦。08年クラス優勝、09年クラス2位。11年クラス5位、13年は世界初の水素/ガソリンハイブリッドでクラス優勝。15年は、限定100台のGT12で出場するも初のリタイア。と、年一レーサー業も続行中。
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